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2007/04/13

ますます元気! ぐりとぐらとなかまたち
『ぐりとぐら』『ぐりとぐらのおきゃくさま』『そらいろのたね』『たからさがし』

「そういうふうに描いてある…」
 この4作品の新規製版作業を開始したのは、昨年の春。中川李枝子さん、山脇百合子さんに来社していただき、初めての校正作業に立ち会っていただきました。当時の編集担当者だった松居直小社相談役とともに、原画と新規製版の校正刷を見比べていただきました。現在宮城県美術館に収蔵されている原画を、山脇さんが額装していない状態でじっくりご覧になるのは40数年ぶりのことです。
 山脇さんは、「私、こんなふうに描いていたのねえ」と当時を懐かしく思い出されながら話されました。「退色しているように思われますか?」とうかがうと、「どうかしら? 何しろ、家にあった学校で使っていたような絵の具で描いたのですからねぇ」といった具合で、校正作業は終始和やかに進みました。
 そんななかで、印象的だったのは「そういうふうに描いてあるんだし、そのままにしていいんじゃないかしら? だめかしらねぇ?」というご発言でした。いままでの版と新しい版との違いについて、いかがしましょうかとたずねたときのことです。
 40年前に作られたいままでの版では、当時の技術的な制約のため原画を再現しきれていませんでした。印刷所のレタッチマンが製版上の処理で原画に近付けようと試みていましたが、結果的に輪郭線の中に色がきっちりとおさまっていて、すっきりしているけれども、全体として平坦な印象でした。太い墨の輪郭線と調子の少ない濃いめの色彩で、はっきりとした形がストレートに目に飛び込んできます。一方新しい版では、輪郭線の上に色が重なっている部分や彩色の濃淡などがより細やかに再現されています。
 実はそのとき、私は中川さん、山脇さん作品の担当者として悩んでいました。『ぐりとぐら』は、発行から40年以上にわたって読まれつづけ、ハードカバー版だけでも390万部が世に送り出された作品です。いままでの本との印象の違いが読者の方々にどう受けとめられるだろうかと、一担当者として、また一読者として考えていたのです。
 そんな迷いが生じているとき、先の山脇さんのご発言にはっとしました。そうでした! 山脇さんが描かれたのでした! ここはこんな色……、ここはこうして……と、丁寧に細い筆の先を動かされたのは、山脇さんでした。大変遅ればせながら、画家の静かな強い意志を感じた瞬間でした。新しい版では、山脇さんのきらきらした眼差しや、きゅっと集中した息遣いまでが感じられるような、温かみのある心地よい絵が再現できたと思います。

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『ぐりとぐら』 旧版より             『ぐりとぐら』 新版より

新規製版の絵本をご覧になって…
山脇さん:「いままでの本は、全体的にお行儀がよすぎたって感じね。今度の方が元気がいいわ」
中川さん:「(山脇さんのコメントを受けて)私も賛成! みんなに長い間読まれてうれしいわ。絵本を読んでもらえる子は本当に幸せ。まわりの大人と一緒に、みんな幸せなときを大切にしてほしいわね。子どもたちは絵本を読んでもらうときには、ただお話を読んでもらっているということだけじゃなくて、いろいろなものをもらっていると思うのよ。絵本を通してまわりの大人の愛情も伝わっていると思います。私は子どもたちの幸せをずっと願っていますよ」

思い出の絵本を、これから初めて出会う子どもたちへ
 私は、1970年代に「こどものとも」を熱心に読んでいた子どもの一人です。今回新規製版した作品は、どれも懐かしい思い出いっぱいの作品ばかりでした。40年以上も前に描かれた原画を目の当たりにすると、作者と編集者の、新しい絵本の創作にかける思いが伝わってきます。新規製版の作業の中では、画家だけでなく、作家に当時のことをお聞きし、作品世界を語っていただくこともありました。すでに他界された作者の方もいらっしゃって、新しくなった作品をご覧いただけないのは本当に残念なことです。画家がいちばん表現したかった色はどれか、お話の流れで重要な絵柄はどれかというように考えながら、印刷所の方々にご協力いただき丁寧に校正を重ねています。新規製版の絵本を、これから初めて出会う子どもたちに、そして思い出の本を誰かに読んであげたいと思っている方々にも、気に入っていただけるとうれしいです。

『ぐりとぐら』の“かすてら”の色について
 原画にあったかすてらの色は、意外にも薄い黄色でした。初版本刊行時に、より美味しそうに見えるよう黄色味と赤味を製版上で加えていたようです。また、そのあとの160回を越える重版で、色が微妙に変化していき、現行本ではやや強く濃くなっていることもわかりました。お二人と相談し、初版本の色に合わせることにしました。やはりかすてらは、「きいろ」く「ふんわり」と焼けていてほしいですよね!

描き下ろしの背表紙のカット、見返し、前扉について
 今回、背表紙と前扉(表紙を開いて2枚目、タイトルが再び出てくるページです)には、新たに山脇さんに描き下ろしていただいたカットが入っています。
ぐりとぐら』:背表紙のカットは、最初の森の場面でドングリやクリとともにみつけたキノコです。前扉のカットは、かごをもって森へ行くふたりの後ろ姿が美しい彩色でいっそうかわいらしくなりました。
ぐりとぐらのおきゃくさま』:背表紙のカットは、お茶会のイメージで、カップとソーサー。大団円のパーティーの場面で、ピアノの上にあるものと同じです。前扉のカットは、暖炉の前で読書中のぐりとぐらです。見返し(表紙のすぐ裏のページです)の色は、中川さんと山脇さんで、クリスマス・カラーの緑を選ばれました。
そらいろのたね』:背のカットは、でてきたばかりのそらいろの家。前扉のカットでは、きつねが何か言いたそうな顔をしてこっちを見ています。また、見返しには、山脇さんの発案でかわいいタンポポの絵柄を入れました。
たからさがし』:背表紙のカットは、うさぎのおばあちゃんの家の庭に咲いているきんぽうげの花です。今回原画を見てわかったことは、うさぎのおばあちゃんがとってもおしゃれだということ。グレーのチェックのワンピースに紺のエプロン、ワンピースの胸元についている赤いボタンがきいています。編みかけのセーターも同じ赤ですね。お部屋の小物もすてきなデザインです。いままでは全体的に色遣いが重い感じでしたが、原画の淡い彩色を再現することで明るい印象の絵本に変わりました。背の色は、山脇さんのご希望でゆうじの靴下の色のイメージに変更。見返しの白抜きカットは描き下ろしで、最初の場面に出てくる川原の土手とはらっぱのイメージです。本を開いてお話が始まる前と、終わって本を閉じる前に、この舞台劇の背景のような線描が読者の目にとまります。

Gurigura_tobira_old     Gurigura_tobira_new
『ぐりとぐら』 旧版扉                『ぐりとぐら』 新版扉

それからもうひとつこぼれ話を…
 『ぐりとぐら』の絵本をはじめお二人の作品の表紙は、作者名が「なかがわりえこ  やまわき(おおむら)ゆりこ」となっています。ふつうなら、「なかがわりえこ さく やまわきゆりこ え」というようにするところです。なぜでしょう。これはちょっとした謎でした。今回の新規製版の校正中、山脇さんが教えてくださいました。「これはね、私たちも『ぐりぐら』のまねをしたのよ!」

                                                                   福音館書店 月刊誌編集部
                                                                   「こどものとも」50周年企画担当
                                                                    八巻伸子

4月 13, 2007 新規製版について |

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コメント

新規製版のこどものとも絵本と旧版こどものとも傑作集を読み比べてみました。そして、大学の講義に持参して、見せました。「限りなく、原画に近づけた絵本になった」と。反響はすごいものでした!授業の終わりに感想を書いて出してくれましたが、幼いときに読んで育った学生たちだけに、「デジタル化はそんなに信用できるのか」「手作りの印刷技術文化はどうなる!」「原画に限りなく近づくことがそんなに大切なのか」「旧版の方がはっきりしていてよい」「絵本は絵本、印刷を考慮して描かれた原画はどうなる!」「原画展の楽しみを奪うな」
まいりました。来週はこのブログを熟読して答えます。全部買い直しました。それにしても「旧版から売ってくれといわれたから」と新版を最初に薦めなかった本屋さんは許せないです。旧版は持っているから、といったら、やっと新版をもってきました。旧版は、店頭から引き揚げるべきじゃないですか?知らない人は旧版から買わされていますよ。

投稿: 三浦精子 | 2007/06/09 14時00分

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