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2007/04/20

「こどものとも」の原画と宮城県美術館

                             宮城県美術館 学芸部長 有川幾夫

 「おおきなかぶ」や「ぐりとぐら」をはじめ、長く愛されてきた絵本がデジタル技術による製版もあらたに、最初の15冊が刊行されました。その中で最後の奥付に「新規製版協力 宮城県美術館」と記していただいたものが12冊あります。絵本の出版に美術館がどんな関係があるのだろうと思われた方もいるかもしれません。そのことについて少しご説明しながら、美術館についてもあらためて知っていただくことがあれば幸いです。

Photo_4  一人の画家や決められたテーマに沿って作品を集めた特別展。またはいつでもそこに行けば決まった作品を見ることができる常設展。どちらにしても美術館というのは絵や彫刻を見るところというのが一般的なイメージだと思います。けれども美術館にはもうひとつ大事な役目があります。それはすぐれた美術作品を未来に残していく仕事です。
 ところで絵本制作のために描かれた原画は、その後どうなるのでしょう。現在では作者のもとにお返しするのが普通のようですが、ずっと以前は絵本ができあがると原画の役目も終わったということで、あとは顧みられない時代もあったそうです。けれども「こどものとも」を創刊した松居直さんは、作者の了解を得て福音館書店に原画を大切に保管してきました。そうして保管されてきた原画の多くが、原画の作者の方々の理解と協力を得て宮城県美術館のコレクションになりました。

Photo_5  宮城県美術館が初期の「こどものとも」の原画を中心に絵本の原画を収集し保存していこうと決めたのには、ひとつのきっかけがありました。それは宮城県美術館の「美術館講座」で松居さんに絵本についてのお話をしていただいたことでした。講座のあと、松居さんは絵本原画の将来的な保存の必要性について述べられたのです。これをうけて宮城県美術館は検討を重ね、その結果、絵本の原画の収集保存に取り組むことに決めました。現在では9,000枚以上の絵本原画を収蔵しています。
 その意味は大きくふたつありました。ひとつは絵本とはまた別に、絵画それ自体としての魅力。それを美術館の来館者に公開する。もうひとつは将来、再刊や新規製版の必要が生じたときに、そのオリジナルが残されていなければなりません。その保存に美術館のノウハウを生かせるのではないかと考えたのです。
 今回の新規製版にあたって宮城県美術館は何か技術的な寄与をしたというわけではありません。美術文化と出版文化にまたがるような絵本原画を将来に向ってまもり、いつでも公開や研究や出版が可能な状態を維持すること。それが私たちの仕事なのです。

 絵本原画の整理はまず絵本との照合からはじまります。絶版の場合は図書館などで確認します。ページ数の都合や文字との関係から、使われていない原画があったり、原画と絵本で少し配置が違う場合もあります。次は現状の記録。画面だけが残ればよいのではありません。作者の書き込みや編集上の指示なども保存したり記録したりします。それから採寸、撮影などなど。長い間に傷んでしまったものは修復の必要もあります。
 絵本原画の特徴は何でしょうか。そのひとつは素材の自由さです。洋画といえば油絵具、日本画といえば岩絵具という具合に、ジャンルが決まった絵には素材にもそれぞれの約束があります。ところが絵本にはそういう決まりはありません。色鉛筆やマジックインクだってオーケー。大事なのは絵本になったときの効果なのですから、思い切った冒険が可能です。それが絵本原画の面白いところでもあるのですが、困ったこともあります。自由度と引き換えに長期の保存性は必ずしも考慮されていない場合もあるのです。たとえばマーカー。明るいところに展示したらあっという間に色がさめてしまいます。保存と公開のバランスというのは美術館にとっては永遠のテーマですが、絵本原画には特にデリケートなものが多いといえます。絵本の本領は、絵と文に加えて印刷や製本の技術などが総合された絵本そのものにあります。各地で絵本原画展が盛んですが、文化財として残すべき絵本原画には展示にもそれなりの制約や配慮が必要になるでしょう。宮城県美術館は総合的な近代美術館としての立場から、これからも絵本原画に携わっていきたいと考えています。

◎写真はいずれも現在宮城県美術館で開催されている「ぐりぐらとなかまたち―山脇百合子絵本原画展」の会場の様子です。この原画展は次のとおり行われています。

Photo_7 ぐりとぐらとなかまたち 山脇百合子絵本原画展

出品作品  『ぐりとぐら』『そらいろのたね』『ゆうこのあさごはん』『ぐりとぐらの1ねんかん』『ぐりとぐらとすみれちゃん』をはじめ、23作品約320点。

会場 宮城県美術館
    宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1 
開催期間 2007年4月14日(土)~6月3日(日)
問合せ先 TEL022-221-2111
       http://www.pref.miyagi.jp/bijyutu/museum/
開館時間 9:30~17:00(入場は16:30まで)
休館日 月曜日(4月30日を除く)
入館料 一般800円(700円)、大学生400円(300円)、高校生以下は無料
    ※( )内は20名様以上の団体料金。

4月 20, 2007 新規製版について |

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