今回の「こどものとも」新規製版という取り組みにあたっては社内で新規製版チームを作り作業を進めてきました。私は制作課というセクションから、用紙、印刷、製本、加工などの制作面や、スケジュール管理などの担当として参加しています。
製版については前回までに印刷会社精興社の小俣技術担当部長から非常に丁寧にご説明いただきましたので、私からは造本やレイアウトに関して細かいところでこれまでと変わったところをいくつかご紹介します。
【判型】
月刊絵本の「こどものとも」は2006年3月号で創刊50周年(600号)を迎え、現在も毎月1冊ずつ新しい作品が誕生しています。途中、133号(1967年4月号)から寸法を少し大きくしていますので、これらをハードカバー化した「こどものとも傑作集」(今回の新規製版分から「こどものとも絵本」にシリーズ名が変わります)も、132号までの作品と133号以降の作品では少し大きさが違うのです。(132号までのものでも傑作集になってから版を新しくした際に大きくしたものもあります)
新規製版第一期の15点の中では 『とらっく とらっく とらっく』(64号)、『だいくとおにろく』(75号)、『ゆきむすめ』(83号)、『しょうぼうじどうしゃ じぷた』(91号)、『ぐりとぐら』(93号)、『そらいろのたね』(97号)、『たからさがし』(104号)、『ふるやのもり』(106号)、『のろまなローラー』(113号)、『ぴかくん めをまわす』(127号)、『ぐりとぐらのおきゃくさま』(129号)、『ねずみじょうど』(132号)の13点が小さい判でしたので、今回の新規製版を機に大きくして、以降のものに揃えました。
縦判 257×182(B5正寸)→260×191(B5変型)
横判 182×257(B5正寸)→188×263(B5変型)
(縦×横、単位は㎜、本文1頁分の寸法)
これにより絵柄を拡大して迫力を増したり、場面によってはあえて絵柄の拡大はせずに、これまで画面から切れてしまっていた部分や、隠れていた部分を見せるなどの細かいレイアウトの調整ができました。
【見返し(みかえし)】
見返しというのは表紙・裏表紙の内側にくる面で、ハードカバーの本では表紙と本文を接合する役割をしています。今回新規製版をする作品の見返しは、これまでは印刷なしの白い見返しだけでした。今回からは扉(1頁目)の前と本文の最後の頁の後に1枚ずつ遊び紙の見返しを加え、それぞれの作品に合わせた色や絵柄を入れました。これにより視覚的にも、表紙から本文の物語へ、物語の終わりから裏表紙へという流れを自然に繋いでくれるようにしました。
また、これまでは物語の場面数の関係で本文の最後の頁に絵柄と奥付(著者紹介や書誌情報など)が一緒に入り、窮屈なレイアウトになっているものがありました。第一期の15点のうちでは『とらっく とらっく とらっく』、『ふるやのもり』、『ごろはちだいみょうじん』がこれにあたりますが、今回から遊び見返しの裏に奥付を移動させることにより、奥付が絵柄のじゃまをしないようになりました。
『ごろはちだいみょうじん』旧版奥付頁 『ごろはちだいみょうじん』新版奥付頁
【用紙】
月刊絵本「こどものとも」では、初期は上質紙と呼ばれる、表面にコートを施していない用紙を使用していて、途中から発色の良さや印刷の再現性などにおいて優れているコート紙(マット)に切替えました。製版は用紙の性質も考慮に入れて行うので、単純に紙だけ変えてしまうわけにはいきませんから、初期の作品である15点はハードカバーの「こどものとも傑作集」になっても上質紙を使用していました。今回は版を新しくするにあたりそれぞれの作品ごとに、製版方式(AMスクリーン、又はFMスクリーン。小俣技術担当部長の連載第2回目参照)とそれに適する用紙を検討して、ほとんどの作品がコート紙(マット)を選択しています。今回の新規製版によって色がとても鮮やかになったのは、もちろん最新の製版技術のおかげですが、用紙も一役かっているのです。
また、単純に発色の鮮やかさを求めるのではなく、ナチュラルな白色度と素朴な風合いの上質紙が適していると判断した『おおきなかぶ』、『ふるやのもり』、『ねずみじょうど』などの作品には上質紙を使っています。
【製本】
製本に関しては特にこれまでと比べて大きな変更はありませんが、ペーパーバックの月刊絵本「こどものとも」と、ハードカバーの「こどものとも傑作集」(「こどものとも絵本」)の製本の仕組みについてご紹介します。
現在の月刊絵本「こどものとも」では「逆中綴じ(ぎゃくなかとじ)」と呼ばれる製本方式をしています。通常の「中綴じ」では背の側からホチキスを入れて表紙と本文を綴じるのですが、真ん中の見開きに折り返したホチキスの針の先端が露出していて手を傷つける危険性があります。それに対して、逆中綴じの場合は背の側からではなく「逆」の真ん中の見開きの側からホチキスを入れ、針の折り返し部は表紙で隠してしまうのでその心配はありません。
「こどものとも傑作集」(こどものとも絵本)の場合は、本文の真ん中の見開きから糸でミシンをかけて本文と見返しを綴じています。それから表紙(ボール紙に表紙の用紙を貼ったもの)と、先ほどご紹介した見返しとの間に糊を入れて接合しています。
『ふるやのもり』の真ん中の見開き(P14・15)ではバックの濃いグリーンとおおかみの絵柄に対して白いミシン糸を使用していたためセンターで目立ってしまっていましたが、今回の新規製版本からグリーンの糸を使い、バックとなじませることによって気にならないようにしました。
この他にも扉の絵柄を新しく描き下ろしていただいたり、墨1色の印刷のところがカラーになったり、背にマークが入ったりと、これまでと変わったところがたくさんあります。ぜひ、実際にご覧になってその違いを確かめてみてください。
『ふるやのもり』旧版扉 『ふるやのもり』新版扉
最後に感想ですが、原画のなかには『きつねとねずみ』、『三びきのこぶた』、『ぴかくんめをまわす』などの線版を別版にしているものや、『ばけくらべ』、『おばあさんのすぷーん』など版画的手法でフィルムに各色を描き分けるなどしたものがあります。その目的は精細な線描を活かすためであったり、版画的な力強さや面白さを出すためであったりです。どれも大変に手間のかかる表現手段ですが、著者の方が当時の製版を知った上で、印刷会社の方や編集者と力を合わせて最上の形で自分の表現を印刷物にしていった情熱を強く感じました。
小さい頃に読んだり、入社以来毎日のように目にしている「こどものとも」の作品の原画に、旧版(その時の現行本)と、新規製版の校正刷を並べて、印刷会社の方に当時はそれをどう製版していったのかを質問し、時には著者の方にお会いして作品への想いを聞かせていただきながら、新しい版を創っていく作業に参加できたことは本当に貴重な経験でした。
第一期の15作品は既に発売されていますが、残りの23作品(予定)は現在も進行中です。責任を感じつつも楽しんで今後の作業に取り組みたいと考えています。
福音館書店 制作課 勅使河原孝史
*原画の表現方法については『おじいさんがかぶをうえました―月刊絵本「こどものとも」50年の歩み』108~112頁をご覧ください。