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2007/03/09

絵から絵本へ――「こどものとも」の製版をつづけて 精興社小俣直包技術担当部長に聞く 第1回

昔の製版・今の製版

今回の新規製版への意気ごみ
 今回の「こどものとも」の新規製版の仕事は、精興社にとっても大変ありがたいですし、すばらしいなという認識をもちました。当然、福音館の目的を最優先に尊重しながら、自分だけではなく精興社全体、特にオフセットに携わる人間すべてにそういう気持ちをもってもらうということが必要だと考えて、目的について営業と印刷の現場おのおの3回ずつくらいミーティングを開きました。目的、考え方、そして将来的な時間について話をしながら、その方向にみんな向こうじゃないかという形を作りながらスタートしました。

私の製版・印刷人生のスタート
 私自身の自己紹介をしますと、高校で3年間、杉並にありました育英高校(現サレジオ高専)の印刷科で写真印刷の勉強をしまして、その後、中野にありました東京写真短期大学(現東京工芸大学)で2年間、写真と印刷の勉強をしました。それから精興社に入社して今年で43年くらいになりますが、若い年代からずっと福音館の仕事をやってきました。「こどものとも」はより以上に長い歴史があって、私どもが勉強してきた製版・印刷の技術についても、その間すごい変革がありました。それでも基礎的なベースを勉強させてもらったおかげで、いろいろな技術的な変革はあっても理論はいっしょですから、何とか頭を切り替えてここまでやってきたというのが現状です。

「こどものとも」の仕事を始めたころ
030145_1  私の思い出は『たいへん たいへん』(1968年4月号 通巻145号)からです。会社として福音館の仕事に携わったのは、もうちょっと早いんです。当時、精興社がオフセット印刷に進出してからあまり年月がたっていないうちに福音館の仕事をいただきまして、最初は内容見本や小辞典文庫等をやっていて、それから少し時間が経過してから「こどものとも」が母体の、今でいう傑作集の重版を中心に仕事をしていました。当時、精興社でも製版から印刷まで一通りそろってはいたのですが、製版については部分的には専業社にお願いしたりして、印刷をメインにしていました。145号からは製版、印刷とも精興社で行いました。
 絵本の仕事は「こどものとも」がはじめてでした。それまでは音響機器メーカーのパンフレットやカレンダーなどをやっていました。神田の事業所の地下に2色機などの印刷機があって、色を全体にベタでのせるガムの包装紙を印刷していたときは、新築のビルの地下で湿気がひどくて紙がのびてしまい、たいへんむずかしかったことを覚えています。それから4,5年後に板橋に工場を借りて4色機を入れ、そこで「こどものとも」の印刷がはじまりました。神田事業所でフィルムから版に焼き付けて、版を丸めてライトバンで板橋に運んだりしていました。

製版の仕事とは
 製版といっても、凸版印刷(注1)とかグラビア印刷(注2)とか印刷の仕方によって、それぞれちがった前準備の製版というプロセスがあります。絵本でいうとオフセット印刷(注3)のための製版があります。要するに印刷するための版を作成する準備段階の作業全体が製版ということになります。
 現在のオフセットの製版でお話ししてみます。

Omatasan_1_a_2  絵の再現をするだけならこういうことはいらないのですが、編集あるいは製作の方からご説明いただいて原画をお預かりすると、各現場の人を集めて、画家の感性ですとかねらいを話しながら、この辺を重点的に色を出していこうとか原画説明をします。

Omatasan_1_b_5  その次にはスキャナーで、——今、家庭用のスキャナーはお手頃な価格で売っていますが、それと仕組みは同じようなものです。もっともっと高性能で細かく色調整だとか階調の修正だとかの機能をもっているスキャナーで——コピーをとるように原画をのせてRGB(Red Green Blue)のデータを取り込むわけです。昔のスキャナーはフォトマルといって光電管だったのですが、今はビデオと同じでCCDを使っています。光を当てて原稿から反射した光をCCDで受けて電気信号に変えます。このときにRGBの色分解をしながら現在の方法としてはデジタルデータというかたちで取り込みます。

Omatasan_1_c_1  つぎに諧調の整えをします。印刷というのは、これを印刷しなさいといわれると、明るいところ暗いところ、緑のところ赤いところ全部あるわけですが、それを均一にちぢめる。Aの白とBの白では、Aの白の方が白いとすると、Aの白を中心に真っ白にその次のグレーから黒になるまでちぢめていく。色についても3原色をバランスよくちぢめていく。そういうのが印刷で、そのためのデータを作るのが製版ということになるわけです。

 印刷する際には基本的には紙と4色のインキ(Cアイ・Mアカ・Yキ・Kスミ)のみを使います。RGB(Red Green Blue)のデータからCMYKのデータを作り、網点で濃淡を表す印刷の版を作ります。4色のインキのみで、原画の色、ボリュームを含め、画家の感性をも再現することを目指すのです。
 これだけの説明ですとよくわからない点も多いかと思いますので、昔の製版の仕方から順を追って見ていくことにします。

昔の製版——光と影の時代
 製版の作業というのは写真の技術を応用して、画像などをとりだしているわけですが、初期のころは写真の技術を使いながらフィルムもまだ完成していなかったのです。それでガラス板をベースにして、現場で作った乳剤を均等に塗ってフィルムのかわりにしていたのです。ぬれている間に撮るので湿版といいます。製版作業用フィルムが普及するのは今から35年くらい前からです。
 オフセット印刷の初期のころは炭素の電極の間で放電させて光を出すアーク灯というものを光源にしていました。原画に光を当て、反射光をレンズを通して蛇腹のついた大きなカメラでガラス版のところにピントがあうようにします。ガラス板のうしろは暗室になっています。ガラス板の前に赤・緑・紫のフィルターをおいて、それぞれ光を当てて現像処理すると、赤のフィルターでは青(Cアイ)、緑のフィルターでは赤(Mアカ)、紫のフィルターでは黄(Yキ)の濃淡を表したネガが作成されます。3種類のフィルターを取り替えながら1枚のガラス板に光をあてると最後に墨(Kスミ)の濃淡を表すネガができます。この作業が「色分解」の作業です。
 これはまだ連続諧調のフィルムなので印刷はできません。写真や絵本の原画など諧調(濃淡)のある原稿を印刷する場合、諧調の変化を網点の大小に置き換えて印刷再現しています。
 そのためには、連続諧調のネガに細かい格子の入ったスクリーン——当初はガラスでできていましたが(フィルムになってコンタクトスクリーンというものになりました)——を重ねて、新たに露光するフィルムとの間にわずかに距離をあけて光をあてます。すると光が格子で回折し、その光の量が網点の大小になって再現されてくるのです。この連続諧調のフィルムを網点に置き換える作業を「網掛け」といいます。
 色分解をして網掛けをするというプロセスは、今のスキャナーでも同じです。ただ電気信号に変わっただけです。

電気信号の時代からデジタルの時代へ
 光と影の時代の次は、電気信号の時代です。コンピュータを搭載したカラースキャナーが設置され、光電管で光の強弱を電気信号に変えて、それをフィルムに露光したのです。この機械によって色分解されたネガフィルムができるようになって、飛躍的に色再現がよくなりました。しかし色再現に必要な網点を作り出す作業は、以前と同じように写真を応用して行われていました。
 この後、色分解の作業と網掛けの作業が一度に処理できるダイレクト・スキャナーが登場しました。この機械は、網掛けの工程で、色分解された電気信号をレーザーの光に変換し、フィルム状のコンタクトスクリーンを通過した光がフィルムに露光されます。精興社では1976年に導入されました。
 その後、この機械には、網点発生装置(ドット・ジェネレーター)が付いて、コンタクトスクリーンはいらなくなりました。(1990年)
 
 今回の新規製版では、光と影の時代に製版された「こどものとも」を最新のデジタル技術で原画から製版し直したのですが、アナログの時代のよさを失わないように最新技術を駆使していることを、実際の作品を見ながら、次に説明したいと思います。
                                            (次回へつづく)

写真撮影 精興社 鈴木隆史

(注1)凸版印刷方式
印刷したい部分が凸になった版(判子)を用意してインキをつけることで、紙などを上に載せ圧をかけてインキを紙に移しますが、代表的なものは一昔前の活版印刷です。簡単にいえば学校などで習う木版画やイモ版と同じ印刷方式です。印刷版材(判子)としては活字やプラスチック等を使います。

(注2)グラビア印刷方式
平らな板や丸い筒状の金属に凹状のくぼみを作り、その中にインキを詰め込んで紙やビニールなどに印刷を行う方法です。インキをたっぶり盛って印刷できるので写真の再現等に使われています。

(注3)オフセット印刷方式
平らな金属の板(版)や筒状に丸めた金属の表面に油の付く部分と水の付く部分を作り判子にします。家庭で使うような普通の判子はインクの付かない部分は凹ませて作りますが(凸版印刷もこの仕組みです)、オフセット印刷の版(判子)は凹みのかわりに水が油を押しのける力を使っています。印刷するときは、この版をゴムのローラー(ブランケットといいます)に押し付けて、インキを一度ゴムローラーに移します。それをまた紙に押し付けて印刷する仕組みです。版に用意(セット)されたインキを一度ゴムに移す(オフ)ので、オフセット印刷と呼ばれています。今書店に並んでいる絵本や単行本の多くがこの方法で作られています。印刷版材としてはアルミやジンク(亜鉛)などを使います。

3月 9, 2007 新規製版について |

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子供の頃はよく本を読んでいた。・・・と思う。 いや、文学小説とかそんな類ではなく「絵本」なんだけどね。 今思い起こしてもあの感動は、、、、、、 あの感動。。。。。 うーん覚えてないモンですね(´・ω・`) でも誰もが、子供の頃に絵本を読んで夢をふくらま....... [続きを読む]

受信: 2007/04/06 19:54:11

コメント

はじめまして。
まったく別の世界で仕事をしている素人ですが、
印刷や製版に興味を持っています。
このブログで、製版について知ることが出来るのは、
ありがたいことです。
これからの連載も楽しみにしています。

投稿: ぎんじ | 2007/03/10 15時38分

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