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2007/03/30

絵から絵本へ――「こどものとも」の製版をつづけて 精興社小俣直包技術担当部長に聞く 第4回

未来へ伝える絵本づくりのために

美しく生まれ変わった「だいくとおにろく」
9784834000856  『だいくとおにろく』の現行本の製版・印刷は、カラー場面では藍・赤・黄・墨・薄赤の5色を、モノクロ場面では墨とグレーの2色を使っています。今回の新規製版は、新しいスキャナーやソフトなどを使い、カラー場面では藍・赤・黄・墨の4色、モノクロ場面も墨のみの1色で再現し、原画に近い再現が得られています。原画を100とすると、この再現は97ぐらいまできているのではないかと思っています(過大評価ですが)。印刷で使用するインクや紙と原画の画材とでは違いがありますから100にはなりえません。この本全体としては原画の再現性は、色の明るさ、絵のシャープさにおいて、格段によくなりました。
 当時(この絵本の製版は精興社が担当する前)、薄赤をくわえたのは、全体の赤み、特に鬼の肌の赤みなどが、4色だけでは出なかったからではないかと思います。色数を使っていながら、諧調、ボリューム、濃度、色自体もなかなか再現がむずかしかったのだと思います。特徴的な色合いが各場面にあるため、その色合いを出すのにこのような手法を使用することが当時はよくありました。原画の再現性という面では、現在ははるかによくなっています。

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『だいくとおにろく』 旧版より

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『だいくとおにろく』 新版より

原画の感じを生かす絵本の製版
 精興社で絵本原画の再現をする場合は極力オリジナルの感じを残したいということで、原画をカラー撮影してフィルムをスキャナーにかけて製版するということはほとんどしません。カラー撮影すると、そこで色、調子、質感すべて写真(カラーフィルム)に置き換えられてしまいますから、オリジナルの質感、色合いなどから離れてしまいます。作業効率的にはカラー撮影した方が原稿がコンパクトになりますので効率はよいですし、現在はデジカメというものもあり、カラー撮りの技術も高くなっています。しかし精興社ではオリジナルの原画を可能な限り、直接、スキャナーで入力しています。スキャナーに巻くのに危険性があるものは、Omatasan_1_b_7 フラットベッド・スキャナー(右の写真参照)で、大きなものは2度に分けてスキャニングして、画像修正で真ん中をつないでいるのです。
 そのほかに製版で注意しているのは、紙の白地をどのように製版するかです。紙の白地を白になるようにスキャニングすると作業的には速いのですが、絵柄の色の薄いところは、薄くなったり飛んだりしてしまいますので、紙の白地はごく薄いグレーになるように入力しておいて、あとで白になるように処理をしていきます。絵柄を全部やわらかい感じで切り抜いて、バックを白にしていくのです。たいへん手間のかかる作業ですが、これが通常の作業工程です。
 先ほど、原画のカラー撮影をほとんどしないとお話ししましたが、立体的なものはカラー撮影をしています。立体感を出すためで、片面から光をあてて影を作って撮影します。油絵など、ある程度凹凸のある原画も、カラー撮影をしています。スキャナーですとなかなか立体感がでないからです。立体物たとえば時計をスキャナーで撮ることはできます。被写界深度といってピントが合う範囲はある程度深いので、撮れることは撮れるのですが、立体が撮れるのと、立体的に撮れるのは違います。立体的(立体感をだして)に撮るにはどうしても影が必要ですので、いろいろとチェックしながら撮影しています。

データにおきかえるだけではない絵本の製版
 原画をカラー撮影して、フィルムをスキャナーにかけ、製版して校了になるという仕事の仕方もあるかもしれません。でも私どもはそれが絵本の仕事だとは思っていないのです。ハイライトからシャドーの諧調表現、質感、色の調子、すべてを吟味したうえでデータを製作しています。その中でもまだまだ、校正刷りだとか本機だとかで不安定要素があってご迷惑をおかけする場合もあるのですが、デジタルの中にいかにアナログの感性を生かしていくかが、絵本には絶対必要ではないかと思っています。
 現在、いろいろなソフト、ハードふくめて、基準はアート紙・コート紙なんです。機械メーカー、写真メーカー、インキメーカーでも、アート紙・コート紙を基準として、基本設計をしています。ですから絵本に使われるような紙を基準にしたハードというようなものは、印刷の機械を含めて、ほとんど存在しないのです。そこで我々は絵本の仕事に合うようなものを見つけながら作業を組み立てているのが現状なのです。
 ですから「こどものとも」「たくさんのふしぎ」の入稿には、営業以外に現場の技術者も数名同席して、お話しを聞いて作業を始めております。校正の戻しの時もおなじで、技術者も同席して、見た目以外のものも汲み取って作業をしています。私も現役のころには「こどものとも」編集部に入り浸りにさせていただきました。
 おかげさまで、いろいろな著者の方々と接する機会に恵まれました。先生方の感性を直に投げつけていただけるわけですから、その感性のすごさ、すばらしさに感動することも多く、自分自身の感性を問い直されることもありました。よい製版・印刷は、先生方の感性をどれだけ印刷物に反映できるかにかかっています。印刷業界の人間として、絵本の世界で長い間お手伝いできたことは一生の幸せです。

写真撮影 精興社 鈴木隆史

「精興社小俣直包技術担当部長に聞く」は今回で終了です。

3月 30, 2007 新規製版について |

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