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2007/03/23

絵から絵本へ――「こどものとも」の製版をつづけて 精興社小俣直包技術担当部長に聞く 第3回

失われた色彩の再現と新たな時代への対応

退色した原画から再製版する――『ぴかくんめをまわす』
Pikakun_newcover  『ぴかくんめをまわす』の原画は、現行本を100とすると30以下くらいの色の濃度しかありませんでした。原画自体が経時変化により退色していたのです。最初は、現在のフィルムを再度スキャニングしてデータ化するという方法も現場の技術者と相談しました。というのは、退色した原画からデータ化して元の色を再現する場合、すべての絵柄の形にマスク(輪郭)をつくらなければならず、作業的に非常に手間がかかると思ったからです。けれども技術者の判断で、原画からやりますといってくれたので、原画からスキャニング後、デジタル機器を駆使して、初版本の濃度まで持ち上げました。
 校正をお出ししたときに、松居さん(初版当時の「こどものとも」編集長、現福音館書店相談役)も「こんな原画がひどい状態なのか」とびっくりされたとうかがいました。原画が退色していて、著者もお亡くなりになっている場合、基準になるのは初版本と、その当時の編集者の記憶ということになります。この絵本の再現では、松居さんの記憶によるところが大きかったのです。
 データ上で色の濃度を持ち上げる場合、モニターで画面全体の色を調整するだけではできません。さきほどいったように、絵柄の部分的な形を作ったうえで、この色を増やせという信号をあたえるわけです。信号をあたえることは簡単ですが、絵の表情を作っていくのは全部の絵の中で一つ一つ作っていかなければなりません。また、色の濃度をそのまま上げればいいというのではなく、諧調をもった状態で持ち上げなければいけません。そこで原画のわずかだけれど残っている調子を、各ポイントで拾い、同じように持ち上げていく作業を丹念に行いました。

原画の表現を修正する
 それから、これは我々から提案させていただいたのですが、横断歩道の絵柄が新規製版の本では現代風に変えてあります。いろいろな場面で出てくる横断歩道の白線の引き方が初版当時と現代では変わっているため、子どもたちの交通安全教育にも使用されていることも考えて、編集部の了解をいただいてデータ上で画像修正しました。

Pikakun_old   Pikakun_new_1

旧版                    新版

 また20~21ページに白バイの絵がありますが、原画では白バイのおまわりさんの服装の一部(手袋、ベルトなど)に色が塗ってあります。今回の新規製版でも、途中までその色がついたまま進行していましたが、校正刷りと現行本をくらべたら、ここは色をぬいて白にしてあるのではないかと気がつきました。急いで編集担当の人に確認して、現行本と同じ白に直しました。

墨版と色版を描き分けている原画
 この『ぴかくんめをまわす』では、画家の長新太さんが原画を製作するときに、まず墨線だけを描いています。これをそのまま白黒で撮影して墨版として使います。つぎにこの墨版を薄い藍で何枚か校正刷りを刷ります。この薄藍で刷ったものに対して画家の方が、色づけをします。これが色版の原画となります。これを色分解して網掛けした版と、墨線の版とを合わせて4色の版を作ります。ですから、この墨版は最初からコンタクトスクリーンをはずしたのと同じことになっているのです。この方法のいいところは、墨線に赤版や藍版や黄版が入っていないことです。単純できれいな墨線だけになります。ただデメリットとしては、水をつけて色を塗ると紙がのびたりしますから、墨版の線と後で色を塗った絵との位置がずれる可能性があることです。ただこの絵本では目立った問題はありません。今回の新規製版でも墨版は網掛けなしの墨線の版です。
 当時、このような原画の描き方は、わりあいによくありました。例えば『きつねとねずみ』『三びきのこぶた』(ともに山田三郎絵)がそうですし、安野光雅さんなども使っていらっしゃいます。墨線をきれいにという目的もあったと思いますし、色版の原画を何枚か描き直すことができるということもあったかもしれません。

調整の技術、昔と今
 通常、墨色はすべての色を使って表現します。コンタクトスクリーンをはずして墨版を作った場合には、墨の線が藍、赤、黄版にも入ってしまいます。その場合、昔のスキャナーにはカラーコレクションという機能があって、墨の下色の藍、赤、黄の色の量を弱くしたり取ったりすることができました。最近の機械というのは、わかりやすく簡便になっています。しかし昔の機械はダイヤルだらけで、複雑な調整が可能で、スキャナー・オペレーターの腕の見せどころでした。
 カラースキャナーの初期には、フィルムに余計な光があたらないようにスキャナーの部屋も全暗室でした。暗い中で慣れた技術者の人が、フィルムを巻いたり外したり、コンタクトスクリーンを取り付けたり外したりの作業をしていたのです。今はすべてデータにしますので、フィルムに出力することはほんとうに少なくなりました。印刷用の版材にもデータから直接レーザーで焼き付けるシステムになっています。
 作成したデータと印刷されたものに差が出るというのは非常に重要な問題です。一般的には、モニター画面上で見る色の濃度、明るさ、調子と、データを専用紙に出力する簡易校正と、さらに印刷して得る結果を同じにしなければならないので、それを調整できるようなソフトがあります。精興社では本紙校正を重視して、専用紙の簡易校正は今のところ使用していません。その場合、校正刷りと本機刷りが理論的には同じなのですが、機械の大きさ、速さ、インクの固さなどがちがいますから、どうしても若干色が変わってしまいます。そこで今やっていることは、平台校正刷りで校了をいただいて、そのデータを本刷りの前に本機で本紙に印刷してみて、多少ちがいのあるところをデータで直して本番にそなえているのです。
                                            (次回につづく)

『ぴかくんめをまわす』『きつねとねずみ』の原画については、『おじいさんがかぶをうえました―月刊絵本「こどものとも」50年の歩み』110~112ページに掲載されています。

3月 23, 2007 新規製版について |

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コメント

こんにちは。第1回から読ませていただきました。
大変なお仕事をされているのですね。
専門的な事は私には解りませんが、可愛い絵本が鮮明に化粧直しをし、より可愛さが増してとても楽しいお仕事にもなるのではないかと思います。

絵本は大好きです。特に福音館さんの本は可愛く楽しい絵本が多いですよね。
以前勤めていた書店の担当の一部に児童書があり、読み聞かせもやっていたので絵本を手に取る機会が多く楽しい時間を過ごしていました。

小俣さんの大変だけど遣り甲斐のあるこのお仕事を、私も楽しみにしております。
また沢山のお話しをして下さいね。
               北九州より。

投稿: 紅の管理人 | 2007/03/25 12時47分

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