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2007/03/16

絵から絵本へ――「こどものとも」の製版をつづけて 精興社小俣直包技術担当部長に聞く 第2回

アナログのよさをデジタルで再現する

線の美しさを再現する——『ぞうくんのさんぽ』
 今回「こどものとも傑作集」の新規製版を進めるにあたって、初版当時の再現精度の高いところは参考にして、製版のプロセスの組み立てをしました。
 光と影のアナログ時代に製版された絵本のすばらしいところは線がきれいであるということです。前にお話しした網掛けの作業で、墨版を露光する際にコンタクトスクリーンをはずして露光すると、網点の入らない、著者が描かれたままの白黒の線が再現されます。それが今のいちばん新しいシステムではできないのです。全部電気信号に置き換えられて、藍・赤・黄・墨の網点状の線で再現されますので、通常の製版では墨の線があまりきれいではありません。
4834005151_2  『ぞうくんのさんぽ』(1968年6月号 通巻147号)は、月刊誌での刊行当時も今回の新規製版も同じ原画で製版に携わった絵本です。当初の製版では、コンタクトスクリーンをはずして墨版を作っていますので、画家の方が描いたとおりの非常にきれいな線が出ていると思います。今回作り替えをして、それが悪くなってはまずいわけですから、限りなくそれに近い表現をということで、通常の網ではなく新しい網点のシステム、FMスクリーンをテストして、これでいこうということに決定したのです。
 従来の網点(AMスクリーンとよびます)は、決められた方向に網点が並び、原画の濃度変化によって網点一つ一つの大きさを変えて諧調を表現していますが、FMスクリーン(フリクエンシー・モデュレーション・スクリーニング)では、もっと小さな点がランダムに配列され、一つ一つの点の大きさは変化することはなく、明るい部分は網点が粗に、暗いところは網点が密に詰まって諧調を表現しています。
 FMスクリーンを選んだのは、線をきれいに見てもらいたいということと、色自体の発色が明るくきれいに再現されるからです。それと、近い将来、4,5年後にはほとんどの印刷はこの方法になるだろうという予測もありました。今回の新規製版では原画にきれいで、はっきりした墨線が描かれている絵本に多く利用されています。

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 (画像をクリックすると拡大してご覧いただけます)    

レンズや網を介さないで製版した作品を再現する
   ——『ばけくらべ』『おばあさんのすぷーん』

4834004929_2   『ばけくらべ』(1964年9月号 通巻102号)と『おばあさんのすぷーん』(1969年12月号 通巻165号)は、原画を特殊な描き方でご用意いただきましたが、これが結果的に今でいうFMスクリーニングと同じような考え方の原画になっています。これらの絵本の原画は、ダイナーベース(ディフュージョンシート)という、表面がすりガラスのように仕上げてあるフィルムに、画家の方が鉛筆などで原画をお描きになっています。すりガラス状のところへ密に鉛筆の粒子がついているところが濃く、粗くついているところが明るくなり、連続諧調が表現できます。まさにFMスクリーンが同じような表現方法です。新規製版では『おばあさんのすぷーん』の原画をスキャニングしてデータ化し、FMスクリーンを使って再製版しました。時代は経過していて、道具も違っていますけれど、考え方は同じだと思いFMスクリーンを採用しました。
4834002381_2  この『おばあさんのすぷーん』は、原画を色分解するのではなく、色分けをされた原画が各々墨で描かれているのです。墨で描かれている墨版、墨で描かれている特色のオレンジ版、墨で描かれている特色のグリーン版の原画が用意されているわけです。今回はその各版の原画をスキャニングしてその諧調をデータ化したわけですが、もともとの製版では、原寸で描かれたこのすりガラス状フィルムの原画とフィルムを密着させ、光をあててネガフィルムを作ります。それを再度反転してポジフィルムにして印刷の版を作り、特色インキで各色を重ねて刷ると、初めて画家のイメージした絵が再現できるという仕組みです。レンズを介したり、網掛けをしたりすると、原画の調子ががらっと変わってしまいます。そのため当時は、原画そのものから直接製版フィルムを作っていたのです。作業工程的にはポジフィルムに返さないと印刷はできないので、そこで諧調がロスされるのですが、今回作り替えたものは、非常にオリジナルに近いものになり、画家の富山妙子さんもお喜びになっていたとお聞きしました。
 瀬川康男さんの『ばけくらべ』も、このあいだ校正をおもちしたら、「ああ、これでいいよ」と先生の感性で見ていただいて、その一言で校了になりました。
 これらの絵本の場合は、標準の藍・赤・黄・墨の4色ではなく、特別に練り合わせてつくった特色のインキでそれぞれの版を刷っています。

原画の雰囲気・空気感を伝える
 『ぞうくんのさんぽ』では、FMスクリーンで線の美しさを再現しただけでなく、絵自体のもっている、ほんわかとのんびりした感じが、コンピュータを使って均一に安定して再現されることで安心感が出ていると思います。たとえば旧版ではぞうくんやかばくんの色が場面によっては、多少変わってしまいました。そういうデメリットは今回払拭されています。この作品は、線版の処理、調子の立て方、色の再現などの考え方が決まれば、やりやすい作品でした。直しもあまりありませんでした。
 
文字は元の本のとおりに
 絵本の中の文字については、元の版を素材にしています。『ぞうくんのさんぽ』の場合はもともと書き文字ですが、他の本もすべて、今までの本の製版フィルムから文字を抜き出して、それを新規製版のデータの中に埋め込んでいます。その理由は、当時の文字は写植で打っていますので、今打ちなおすと、寄り引き(字づらの左右両側の空き幅)などが微妙に変わってしまう問題があることと、打ち直しでまちがってしまう可能性があることです。絵は原画から再スキャニングしましたが、文字は元の本のフィルムから抜き出して画像としてデータ化したのです。
 
 『ぞうくんのさんぽ』は原画の保存状態もしっかりしていましたが、原画が非常に退色していた作品もありました。つぎにいちばん原画の状態の悪かった『ぴかくんめをまわす』についてお話しします。
                                            (次回へつづく)

スクリーン見本撮影 精興社 鈴木隆史

表紙画像は、現在販売中の「こどものとも傑作集」のものです。

『おばあさんのすぷーん』の原画については、『おじいさんがかぶをうえました―月刊絵本「こどものとも」50年の歩み』108~109ページに掲載されています。

3月 16, 2007 新規製版について |

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コメント

大変興味深く読ませていただいています。最近は色が濁らなく明るくなっていることを感じています。
ただ、線が均質化されて、味わいが薄くなってしまっているようにも思います。(これは絵本全体についてです。)新しい版の絵本を見るのが楽しみです。

投稿: 会留府 | 2007/03/18 22時36分

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