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2006/06/30

こどものとも50周年に思うこと  作田真知子

 50周年ということは、毎月一冊ずつ出版される「こどものとも」が600冊になったということです。それに増刊号3冊と途中からできた「こどものとも年中向き」200冊を加えると、あの薄さのあの大きさの絵本が803冊も出版されてきたということですね。
 その中から子どもたちが3代にわたって楽しんでいるロングセラーがたくさん生まれました。時代も違えば、生活環境も違うところで暮らす人々が、世代を超えて、「その話こうなんだよね。あそこがおもしろかったよね」と、心の中に共通の世界を持てるのは、思えばすごいことだなあ、と思います。変化の激しかった日本の文化の中でもめずらしい現象ともいえるのではないでしょうか。絵本というメディアの持つ力をあらためて目の当たりにした感があります。
 また絵本を作る側から見ると、この50年はじつにたくさんの人たちがその時代時代で、子どもに向けて自分を表現してきた歴史だとも言えます。子どもに向けてお話を語りたい人、子どもに向けてことばを発したい人、子どもに向けて絵を見せたい人。50年の間そういう人は絶えることなく、今もたくさん存在します。どうしてなのでしょう。作り手はみな大人なのにどうして大人に向けてではなく子どもに向けて自分を表現したいのでしょうか。「こどものとも」は子どもに向けた仕事の動機として一番多い、「子どもたちの教育のために」という姿勢は当初からとりませんでした。「子どもたちの楽しみのために」と考えてきました。ということは「こどものとも」で自分を表現したい、と思っている人は「子どもといっしょに楽しみたい」やむにやまれない欲求を内にかかえていると言えるかもしれません。

 子どもたちは、ほんものとにせものをすぐに見抜きます。同じおもしろいものでも、ほんものはなんどでも味わいたいし、にせものはすぐに飽きてしまいます。「子どもといっしょに楽しみたい」から、ほんものの楽しさを味わえる表現をめざす人がたくさんいたから、こんなにたくさんの「こどものとも」は誕生をくりかえすことができたのでした。
 私たち「こどものとも編集部」はそういう人たちとこれまでもこれからも仕事ができて、ほんとうに幸せだと思います! 何が子どもたちにとって、おいしくて栄養になる食べ物のように、楽しくていつまでも心に残る絵本なのか、模範解答などありません。なぜかというと絵本は一冊ずつ、うみだす親も違えば、親がたいせつにしていること、面白いと感じていることも違う。親が美しいと感じていること、愉快だと感じる絵も違う。まるでひとりの人間みたいなものです。だから模範解答などないのがあたりまえ。そのできかけの絵本の声に、耳をすまして、一冊ずつその絵本が求めているおもしろさ(それはかならずしもその親が求めているものがすべてではありません)をめざして努力するのが私たち編集部の仕事です。思いっきり自由に、思いっきり楽しい絵本をめざして。
 だから私たち編集部のひとりひとりは、いつもできかけの絵本の声が聞こえるように、自分自身のこころの耳を澄ませているようにするという、簡単なようでいてむずかしい仕事を背負っているとも言えます。ほんとうのことばに出会い、ほんとうの絵に出会い、ほんとうの楽しさに出会うために。そして毎月一冊のおもしろい「こどものとも」を子どもたちの心に届けるために。

作田真知子(さくた まちこ)
1971年、福音館書店入社。月刊誌「子どもの館」編集部などを経て、1984年より「こどものとも」編集部勤務、1994年より「こどものとも」編集長。

6月 30, 2006 エッセイ2005年 |

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コメント

とうとうここまでたどり着いてしまいましたか・・・。嬉しいような寂しいような、複雑な気分でいます。
私はS40生まれです。幼稚園時代園からの配本がありました。母はあまり興味がなかったのでしょう、残念ながら残っておりません。
時は流れ、結婚し、H10冬息子が生まれました。彼が1歳になった時に書店に『012』を年間予約して以来、『とも』シリーズいろいろ取り続けています。今は『とも』『年中版』『年少版』の3冊。H13生まれの娘が今園から『年中版』を持ちかえってくるのが非常に嬉しい。
これからも永遠にとり続けることでしょう。自分のために。こどものために。そしてまだ見ぬ孫のために。
ところで、昔に比べて雑な絵が多い気がします。これが今風なのか、私に心の広さが足りないのか。もちろん素晴らしいな♪と感じる本も多いのですが。
これからも期待しています。よろしく!

投稿: まっきー | 2006/07/03 05時26分

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