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2006/04/07

<作家インタビュー>『サラダとまほうのおみせ』が生まれた日  カズコ・G・ストーン

 マーガレット・ワイズ・ブラウンの『おやすみなさい おつきさま』(評論社)を、3歳の娘に読んでやっていた時のことです。部屋の中にあるもの、テーブルや椅子などに、「おやすみなさい」と言っていく絵本なんですが、ページを繰るたびに、娘が「あ、ここ」とか「そこ」とか言ってるんですね。私も「え、何?」って、何を見てるのかと思ったら、絵の中に小さなネズミがいたんです。そのネズミがページごとにちがう所に移動しているんです。私はそこにネズミがいることに、気がつかなかったんですね。娘は小さなものを見て、指で追っていたんです。
 「ああ、子どもってのは、こういう小さいものに目がいくんだなあ」と思ったのが、昆虫を小さいサイズ、実物と同じくらいのサイズで描こうと考えたきっかけです。大人の感覚では、小さい子は小さいものは見えないのではないかと、いろいろなものを大きく描くでしょう。でもその必要はないんじゃないかと思いました。見えないのは、むしろ老眼になった大人で(笑)。
 この作品の前は、私はずっとワニのシリーズの絵本を描いてたんです。その時は、ヤシの木が描きたくてしょうがなかった。ヤシの木と熱帯雨林みたいなものが描きたくて。それで10冊くらい描いたら「もう、ヤシの木はじゅうぶん描いたなあ」って、なんだか、日本ふうの、風にそよいでいるヤナギを描きたいなあって思ったんです。それで「やなぎむら」というのを描こうと思いつきました。

 もともと、植物と昆虫が好きだったんです。中学生くらいまで、昆虫採集をしてましたから。昆虫に関しては、ハートで覚えている、というか、足の形とかがパッと浮かんでくるんです。実家は東京の荒川のそばなんです。土手があって、今はコンクリートで固められてるんですけど、昔は草ぼうぼうで、そこでいつも、バッタをつかまえたり、チョウチョを追いかけ回したり。川だから、メダカもいたし、ザリガニもいました。
 母の話によると、小さい時から、昆虫が飛んでいるととびだしていって、「トンボ、トンボ」とかいって、捕ってもらわないとおさまりがつかない。おじいちゃんや父親が、あわてて捕りにいく。自分で捕れるようになると、あちこち連れていってもらって、網持って走り回ってた。カミキリムシ、コガネムシだとか、石の下にいるハサミムシやダンゴムシなんかも、よく見るときれいな形をしている。
 アメリカにきた時、ここは広い国だから、きっといろいろな昆虫がいるだろうなと楽しみにしていたら、ほとんどいなかったのでがっかりしました。全体的に乾燥している国だからでしょう。その点、日本は昆虫の宝庫だと思います。

 小さい時から、絵を描くのも好きだったんです。作文も小学生の時から好きだった。子どものころ好きだったことが全部いっしょになって、今、絵本を描いているんだと、最近になって思いました。
 このシリーズも、最近はとなり村も出てきちゃて、地理的に、右にあったものが、次の絵本で左に出てきたらまずいでしょ。それでこのあいだ、立体の地図を作ったんです。最初は地図を描いたんだけど、私は地理音痴なところがあって、こっちいった時に左に見えてたのは、帰りには右に見える、というのをわかるために、立体で作りました。
 となり村のことも4、5冊描きたい。最終的に、みんなが知ってる昆虫をだいたい全部出したいんですね。あんまり変わったのは別にして。今までのお話では、モナック蝶だけは、日本にいない。アメリカではよく見るんです。日本でモンシロチョウが飛んでるくらい、ポピュラーで。
(「こどものとも年中向き」2001年9月号折込付録より一部省略して再構成)

カズコ・G・ストーン
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。1973年、渡米。主な絵本の作品に『おやすみわにのキラキラくん』『おやすみクマタくん』、「やなぎむらのおはなし」のシリーズには『サラダとまほうのおみせ』『ほたるホテル』『きんいろあらし』『ふわふわふとん』、となり村のお話に『しげみむら おいしいむら』、『しのだけむらのやぶがっこう』(「こどものとも」556号、本年6月中旬「こどものとも傑作集」で刊行予定)、『みずくさむらとみずべむら』(「こどものとも」580号)があり、今年の「こどものとも」9月号(606号)で『くぬぎむらのレストラン』を刊行の予定(以上すべて福音館書店刊)。アメリカでも多数の絵本を出版している。

4月 7, 2006 エッセイ1994年 |

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コメント

こんにちは。カズコ・G・ストーンさんの繊細な絵が大好きで、やなぎむらのシリーズを愛読しています。
しかし、このエッセイを読むまで、いもむしのモナックさんが、モナック蝶に「変身」したとは知らずにいました。(そもそもモナック蝶というチョウチョがいることを知りませんでした)ずっと「普通のアゲハ蝶」だと思っていたのです。モナックという名前は何に由来しているのかなあ、と漠然と思ってはいましたが。
次に読むときは、「モナック蝶になったモナックさん」を意識して見てみます。

投稿: ruca | 2006/04/11 15時48分

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