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2006/03/17

<作家インタビュー>『もりのひなまつり』が生まれた日  小出保子

 私は、人形が嫌いな子だったらしいんです。物心ついた時には、まわりに人形というものがなかった。それで母に「人形がほしい」といったんですよ。そうしたら、「あなた、ちっちゃい時に人形が嫌いで、買ってやろうとしてもいやがったのよ」という話で、そういわれてみると、人形って気持ち悪かったのかなあって、後で思うんですけどね。
 市松人形のすごく立派なのを、隣のきょうちゃんっていうお姉さんが疎開するんで、自分の身代わりという形で私にくれたんです。ところが、私がとっても悪い持ち主でね(笑)。顔は汚れるし、髪はぐじゃぐじゃになるし。そうしたら、ある夜、きょうちゃんがやってきて、人形を返してくれっていうんですよ。母も驚いて、「すごく汚しちゃったから」っていったら、それでもかまわないから返してほしいって、それで返したんですけど。ほっとしたから、やっぱり人形はきらいだったんですね。
 でも、嫌いなんだけど、嫌いなものって見ずにはいられない。興味をそそられるじゃないですか。3月に飾られるお雛様もね、なんかこう、動いてるんじゃないかという気がする。目をちょっとそらした隙に動いてるとかね。

 それと育ったのが田舎の古い家で、鼠が多かったんですね。ちょろちょろ出てきていて。お雛様を飾った夜、鼠が天井からおりてきて、母の寝床にもぐりこんだ事件があったんです。本当に大きな鼠だった。年寄り鼠だって、父はいうんですけどね。母の足にさわって、とっても冷たい手だったそうです。鼠は廊下の暗闇に消えてしまったけど、何かやっぱり、お雛様に用があったんじゃないかと。ひょっとすると、鼠と人形が友だちというかね、何かあやしいんじゃないか、と思って。
 例えば道を歩いていても、風もないのに葉っぱが1枚だけ揺れていたりすると、それは何かの印でね、何かそこにちっちゃなものがいるんじゃないか、って思うんです。そんな小さなものの世界が好きで、そういう世界を知りたいと思っていて、そのひとつの方法で、お雛様と鼠の話になったんだと思います。
 お雛様はすましてるけど、実は毎年、鼠たちとこっそり何かしているんじゃないか。そう考えてワクワクしてしまって。お雛様と鼠たちは、代々こんなことをしてきたんじゃないかと思えてくるんですね。
 小学生から、『もりのひなまつり』が楽しかったという手紙が何通かきて、その中に「私は雛人形が大嫌いです」という女の子がいたんです。「やっぱりこういう子、いるんだ」って、ほっとしたんですけど。その子も、「嫌いだったんだけど好きになった」といってくれて、ちょっとはよかったかな、って思いました。それと、男の子がけっこう楽しかったっていってくれて、すごくうれしかったです。
(「こどものとも年中向き」2001年3月号折込付録より一部を再録)

小出保子(こいで やすこ)
福島県に生まれる。桑沢デザイン研究所卒業。絵本に『とんとんとめてくださいな』(1986年銀の石筆賞受賞<オランダの絵本賞>)『ゆきのひのゆうびんやさん』『はるですはるのおおそうじ』『とてもとてもあついひ』『かさかしてあげる』『おなべおなべにえたかな』『やまこえのこえかわこえて』『もりのひなまつり』『おおさむこさむ』(以上、福音館書店)などがある。千葉県在住。

3月 17, 2006 エッセイ1991年 |

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