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2006/01/20

昔話絵本の展開(2)       時田史郎

 さて1982年度の昔話の2作目、『ふくろにいれられたおとこのこ』は、フランス民話の絵本化です。山口智子(再話)さんと、堀内誠一(画)による作品ですが、このお二人によるフランス民話の絵本は、1977年の『きこりとおおかみ』に続いて2作目です。その『きこりとおおかみ』を制作中にくださった手紙のなかで、堀内さんは次のように語っています。
 「フランスの民話は形式は乱れているかもしれませんが、あまり民話民話した形式にはまりすぎていないので、かえって自然で親しみやすいと思います。妙に深い意味やナゾが無く、それでいて人生の知恵みたいなものはちゃんとあり、神秘的な魅力よりは常識がかっていますが、明日を想いわずらいたくない庶民の望みが反映していて健康です。来年中にもう1冊ほど『こどものとも』でフランス民話をやらせてください」
 そして、フランス各地の民話を5、6冊揃えて、「フランス民話絵本集」のような形でまとまるようにしたいと希望を述べ、そのため絵についても「各地方の全く性格の違う民話を扱う際にも共通できるようなものにしたいと考えています。様式的すぎず、ナイーブなものにしたいと思っています」と書かれています。
 残念ながら第1作目から数えて5年目の『ふくろにいれられたおとこのこ』のあとは続きませんでしたが、この2冊の「フランス民話絵本」の絵には、堀内さんのフランス民話にたいする強い愛着とそれを日本の子どもたちに楽しんでもらいたいという思いがあふれているように思います。

 1982年度「こどものとも」の3作目の昔話絵本は、『さるとびっき』です。
この昔話は、「猿と蛙の寄合田」といわれている話ですが、登場動物が「猿と雉」になったり、「兎」になったりしている類話を含めれば、それこそ日本各地で語られてきました。でも、この絵本をつくるにあたって、私は山形県の小国町に伝わる話をもとにしました。そのいちばん大きな理由は、かつて私は、この昔話を再話してくださった武田正さん(日本の昔話のすぐれた採集・研究者のひとり)につれられて、小国町に住む川崎みさをさんという昔話の有数の語り手を訪ねたことがありました。そして、川崎さんから直にこの昔話を聞かせていただいたことがあったからです。まず耳から聞いて味わったので、語りのリズムのようなものが私の記憶のかたすみに残っていました。それを大切にして編集していきたいと考えたのです。
 ところで、前回の原稿の冒頭で、そのころ昔話の絵本化がブームになりつつあったと書きましたが、同時に「昔話は口伝えに伝えられ語られてきたもの、それに絵をつけるのは、聞き手(子ども)の想像を限定してしまい、昔話を聞く楽しみを半減させてしまうので、昔話の絵本化は好ましくない。それに昔話本来の楽しみ方ではない」という意見がありました。でも、多くの昔話は絵で多少説明していかないと、今の子どもたちには伝わりにくい、小判だの囲炉裏だの蓑笠だのという言葉についてもまた然りだと思います。それはともかくとして、こうした意見を聞きながら、子どもたちの想像を限定するどころか羽ばたかせるような簡潔でいきいきとした絵による昔話絵本ができないかと考えていました。じつは、そのために最適な昔話が『さるとびっき』だと考えました。
 この昔話にそえる絵は、餅の白さと猿の顔とお尻の赤を際立たせるために色彩も抑え、動物の表情やしぐさだけを簡潔にいきいきと描かれていればそれで充分だと思いました。そこで、画家の梶山俊夫さんに編集意図を良く説明して、この昔話に絵をつけてくださるようにお願いしました。梶山さんはそれまでの画風とはずいぶん違いますが、巧みな筆遣いで過不足なく、この昔話に相応しい絵をつけてくださいました。
 なお、この『さるとびっき』の見返しに、もとの話を語ってくださった川崎さんの名前を表記しました。多くの昔話絵本のテキストは、いくつかの類話をもとに再話することが多く、もとの話の伝承者を表記することはほとんどなかったのですが、武田さんの意向もあり、伝承者に敬意を示す意味で、表記させていただきました。
 1982年度の「こどものとも」は、以上3点の昔話絵本を出版しました。
 しかし、一口に昔話絵本といっても、その世界は広く、内容も形式もまったく違います。子どもたちも、それぞれに違った物語絵本として楽しんでくれたと考えています。

時田史郎(ときた しろう)
1943年、東京に生まれた。早稲田大学卒業後、福音館書店に勤務。1975年より1983年まで「こどものとも」編集長を務める。民俗学に造詣が深く、特に、昔話と、昔話の採集・再話者であった佐々木喜善の研究をしている。絵本の再話に『うらしまたろう』(福音館書店)がある。神奈川県在住。

1月 20, 2006 エッセイ1983年 |

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