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2006/01/06

<作家インタビュー>『いそがしいよる』が生まれた日   さとうわきこ

 『いそがしいよる』っていう絵本は、子ども時代に屋根とか廊下から見ていた月の印象と、宮沢賢治のふるさとで見たお月様と、ふたつが重なってできてるんだと思います。
 子どものころから、よくお月見をしていました。父も月や星が好きで、おだんごやすすき、花を用意して、家族でお月見。それがすてきな記憶として残っています。
 それと25歳くらいの時に、月が山から昇るのを見たのが印象的だったことです。宮沢賢治の研究家の先生が、書簡集を作るというので、私を入れて女の子3人でくっついて岩手県内を歩いてたんです。陸中松川というところに賢治の晩年を知ってる人がいて、賢治の手紙を写させてもらいました。コピーもない時で、手書きで朝から写していました。賢治は私のひとつの憧れだったので、手紙に触れることができてよかったんですけど、夜遅くなっちゃって、終わって外に出たらまっ暗なんです。
 そこから帰る時に坂を下りながら歩いていたら、むこうの山のてっぺんが明るくなるんですよ。「何だろう何だろう」っていったらね、お月様が薄皮のようにキュッと出てくるの。みんなでアッといって。そしたらものすごいスピードで上がってくる。大きな黄色いかたまりが昇るんですよ。うれしくなっちゃってね。みんなで手をつないで童謡を歌いながら帰ってきました(笑)。
 私のほとんどの作品は、そういう昔のちょっとしたキズみたいなものがよみがえってできてるところがあります。

 この作品も、最初「母の友」の童話だったんです。水口さんという編集の人に童話を持っていくと、最初はケチョンケチョンにけなされて、「あなたらしい言葉で文章を書け」と、よくいわれました。例えば、私は中川李枝子さんの『いやいやえん』が好きだったんですけど、それを読んだ後で文章を書くと『いやいやえん』っぽくなっちゃうのよね。そういうのはもう、すぐ見抜かれちゃってね。「こんなんじゃあだめだ。あなたらしい文章が絶対あるはずだ。ぼくにはわかる」っていうの。
 賢治の本を読むと、賢治らしい言葉ってたくさんあるんですよね。「鬱金しゃっぽのカンカラカンのカアン」なんて言葉があって、何かとってもすてきな感じがしちゃう。ひとつの文章読んだだけで、賢治らしいな、と思う。そういう文章を私も持ちたい、と思ったの。それで私自身も自分の文章を探したし、水口さんも探してくれました。
 ばばばあちゃんの口調は、関東弁です。でも気持ちの中では東北弁が混ざってるんですよね(笑)、賢治が好きだから。調子は江戸弁で、パンパンと機関銃みたい。私は実生活でもそういわれます。「ケンカしてるみたいだ」と。
 
 賢治の童話は、子どもの時に父が読んでくれていました。私は体がすごく弱かったんです。結核なので長生きしない、と親はかわいそうに思ったらしいんですね。それで、けっこう童話をよんでくれました。『やまなし』という作品の、「クランボン」って、なんか泡のような軽いものの気がしていた。カニが親子で話してるなんていいな、と思いました。家の近所に小さな水の湧いてるところがたくさんあって、沢ガニもいっぱいいたんですよ。それで「あ、あそこじゃないか」って思ってね、「クランボンはわらったよ」というのを、よくそこに見にいきました。
 内容よりも、変わった言葉を覚えてる。子どもってみんなそうかもしれない。ふつうの言葉じゃなくて、唱え言葉や歌のようなものをよく覚えてます。
 父はそういう人で、一方で母はとてもたくましい人でした。私が子どものころは、たらいで洗濯してました。『せんたくかあちゃん』(「こどものとも」269号)は、今思うと私の母親像なんですね。描いてるときには気がつかないんだけど、下地になっているのは母のたくましさだなあって、最近になって思います。
 (「こどものとも年中向き」2000年12月号折込付録より一部省略して再構成)


さとう わきこ
東京生まれ。児童出版美術家連盟所属。『とりかえっこ』(ポプラ社)で第1回絵本にっぽん賞受賞。『いそがしいよる』『すいかのたね』『あめふり』をはじめとする「ばばばあちゃんのおはなし」シリーズのほか、『せんたくかあちゃん』『おつかい』『るすばん』など絵本の作品多数。また「かがくのとも傑作集」にも、ばばばあちゃんの登場する料理の絵本『よもぎだんご』『ばばばあちゃんのおもちつき』『ばばばあちゃんのやきいもたいかい』(以上、福音館書店)などがある。長野県岡谷市と八ヶ岳山麓で、「小さな絵本美術館」を主宰。

1月 6, 2006 エッセイ1981年 |

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ゆうべ、夜寝る前に るーくんが読んでいました。 保育所から 借りてきた一冊です。 。)いそがしいよる―ばばばあちゃんのおはなし こどものとも傑作集 ... [続きを読む]

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