横長判への展開 松居 直
「こどものとも」が6年目に入ったころ、並行して進めていたのがアメリカの絵本の翻訳出版の企画でした。最初に候補にあがったのは、『100まんびきのねこ』と『シナの五人きょうだい』の2冊です。ともに横長の判形で、それぞれの物語の変化と連続性とに合わせた動きのあるさし絵が、絵本なればこそ語れる物語の効果を完璧に表現し、物語絵本の構成の妙とそのあるべき姿を示しています。この2冊の絵本の邦訳を再編集する経験を通して、絵本における文と絵の組合せについて多くのことを学びました。その詳しいことは『絵本の力』(岩波書店刊 河合隼雄・柳田邦男との共著)をご覧ください。
「こどものとも」の編集が壁にぶつかり、今後の物語絵本の展開には思い切った手段方法を取る必要性を感じていた矢先でもあり、アメリカの2冊の絵本の物語る力を徹底的に分析研究しました。そうして得た結論が、横長の画面に特有の“動き”の効果です。頁を開くと大きく左右に広がる画面の視覚的な動きは、物語を語るには実に効果的で、さし絵が動き、物語のそれからそれからという展開が波のうねりのようにはずみます。そうだ! 「こどものとも」も横長にしてはと考えました。
しかし画面を横長にすると、タテ書きの文章の入れ方がむずかしくなります。そこで思い切って、「こどものとも」を横長判にし、文章も横書きにする決断をしました。絵本の文章の横書きは前例がありません。読者の反発が予想されます。しかし物語絵本のさらなる充実と発展には、これ以外に方法はありません。
かくて1961年7月号から、「こどものとも」をB5判・横長判で本文横書き、左開きの絵本にしました。そして第一作としての効果を強く印象づけるべく、トラックが高速で長距離を走るという乗物絵本『とらっく とらっく とらっく』を編集したのです。
子どもに絵本を読まれる大人の方々の印象は決して良くはなかったのですが、読んでもらいながらさし絵を読み取る子どもの反響からは、とても効果的であることがわかりました。この絵本づくりから、『スーホのしろいうま』や『たろうのともだち』『3びきのくま』といった作品が生まれ、さらに翌年の増頁によるより本格的な物語絵本の企画へと発展して、『おおきなかぶ』『だいくとおにろく』『かわ』『かばくん』といった傑作を作り出すことになるのです。
7月 29, 2005 エッセイ1961年 | Permalink
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