2005/11/11

「こどものとも」との出会い    はせがわせつこ

 毎月やってくる「こどものとも」にいつ出会ったのだろう。今や、無数の「こどものとも」は記憶の宇宙塵のなか、30光年の彼方の星々となってさまざまな色に明滅している。どれがいつのものやら……これは望遠鏡が必要だ、と担当の人に編年体のリストを送っていただいたら、見えた、見えた。私が自分と2歳の長男のために「こどものとも」をとり始めたのは1974年だ。『あらいぐまとねずみたち』、『クリーナおばさんとカミナリおばさん』、『しちめんちょうおばさんのこどもたち』、『ちいさなたいこ』、『くずのはやまのきつね』、『つつみがみっつ』、『おおきなひばのき』、『こうしとむくどり』と、懐かしい絵本の一等星が軒並み輝いているではないか。ここだ、と私は確信した。

 本箱の前に立って、背表紙の半壊した古そうなのをひっぱり出すと、あった、あった、4人のわが子が入れ代わりに読んでよれよれになった『あらいぐまとねずみたち』が。そっと開くと、たちまち子どもたちの幼い声が聞こえてきた。森の中のギョロ目のふくろうを指さして「ホー、ホー」と、言っていた2歳の息子の声。保育園の行き帰り、裸の柱が林立する建築中の家を見るたびに、一緒に歌ったあの歌。「とんかん とんかん とんかん かん/あかんぼたちにゃ よつゆは どくだ/やねが できたら よつゆに ぬれぬ」
 長女はこの絵本に出てくるねずみの新築の家の断面図が好きで、一人でじっと見入っていた。今でもその背中を思い出す。三つ子の魂何とやら、彼女はいまだにドール・ハウスの熱烈なファンである。

 1冊の「こどものとも」を開くと、時間の井戸の底から立ち上ってくる子どもたちの声。それは私にはどんなアルバムの写真よりも生ま生ましい。幼い子の息がふっと首にかかる気がして一瞬、背中が熱くなってしまう。たくさんの「こどものとも」に子どもたちの笑い声やため息や歌声がたたみこまれていく。絵本はそうやって成長するのだ。我が家の本棚の「こどものとも」たちはわが子だけでなく私の読み聞かせの会「おはなしくらぶ」に通ってきた、たくさんの子どもたちの声声を吸い取って豊かに育っている。「こどものとも」が来ると、まるで絵本の赤ちゃんが来たみたいだ、と思う。大きく育ってほしいと思う。そして、どうしても捨てられない「こどものとも」で我が家の本棚はいつも満員になってしまうのだ。

長谷川摂子(はせがわ せつこ)
絵本、童話作家。1944年、島根県平田市生まれ。東京外国語大学でフランス語を専攻。東京大学大学院哲学科を中退後、保育士として6年勤務。現在は「赤門こども文庫」「おはなしくらぶ」をひらいて、子どもたちと絵本や詩、わらべうたを楽しんでいる。絵本に『みず』『めっきらもっきら どおんどん』『きょだいな きょだいな』(いずれも福音館書店)、「てのひらむかしばなし」シリーズ(岩波書店)など。読み物に『人形の旅立ち』(福音館書店/第19回坪田譲治文学賞ほか受賞)、評論に『子どもたちと絵本』(福音館書店)がある。埼玉県在住。

11月 11, 2005 エッセイ1974年 | | コメント (0) | トラックバック (0)

1974(昭和49)年度にあったこと

春闘共闘委員会、初の国民春闘。81単産600万人統一ストを実施し、国鉄初の全面運休、日本列島は2日間マヒした。(4月)
日中航空協定調印。(4月)
「伊豆半島沖地震」(M 6.9、死者・不明30人、負傷者102人)(5月)
インド、初の地下核実験を行う。(6番目の核保有国に)(5月)
労働省、春闘結果を発表。1部上場企業261社の賃上げは単純平均で32.9%増、史上最高のベースアップ。(6月)
第10回参議院議員選挙。7議席差の保革伯仲に。(7月)
北の湖が第55代の横綱に、21歳2ヵ月は史上最年少。(7月)

原子力船「むつ」、漁民による抗議の海上封鎖の中、出力上昇試験のため大湊を出港。(8月)太平洋上で放射能漏れを起こし実験中止。(9月)帰港を地元漁民に拒否され漂流を続けていたが、原子炉を凍結することや母港撤収するなどの条件がおりあい、50日ぶりに母港に帰港。(10月)
雑誌「文藝春秋」11月号、田中角栄退陣のきっかけとなった立花隆「田中角栄研究」を掲載。(10月)
巨人の長嶋茂雄が引退、「巨人軍は永遠に不滅です」。(10月)
田中角栄首相退陣。三木武夫内閣成立。(12月)
春場所で大関貴ノ花が初優勝。兄若乃花と史上初の兄弟優勝。(3月)


主なベストセラー:『かもめのジョナサン』リチャード・バック(新潮社)、『ノストラダムスの大予言』五島勉(祥伝社)
テレビ:『ニュースセンター9時』(NHK)、『世界の料理ショー』(テレビ東京)、『赤い迷路』(TBS、山口百恵の“赤い”シリーズ第1弾)、『パンチDEデート』(フジテレビ)、『まんが日本昔ばなし』(NET・現テレビ朝日)、など放送開始。
新商品:「がん保険」(アメリカン・ファミリー日本)、「ハローキティー」商品(サンリオ)
ヒット曲:『なみだの操』殿さまキングス、『あなた』小坂明子、『うそ』中条きよし
この年に登場したもの:「Gマーク」(通産省・グッド・デザイン商品選定制度)、「朝日カルチャーセンター」(朝日新聞社)、コンビニ第1号店(セブンイレブン)、「アメダス」(気象庁)

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あらいぐまとねずみたち

1974年4月号
030217

大友康夫 さく・え

森の川辺に住むアライグマの親子の家から、ある日ジャガイモや豆が袋ごとなくなっていました。こぼれた豆のあとを追っていくと、ネズミたちが前になくなったおもちゃで遊んでおり、豆の袋もそこにありました。アライグマの親子は怒って、ネズミたちをつかまえますが、ネズミたちが食べ物に困っていると知り、一緒に畑を作り、家を建てることにしました。大友康夫の初めての絵本です。

「こどものとも」217号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

この絵本は1977年に「こどものとも傑作集」の1冊として刊行され、現在も販売されています。

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クリーナおばさんとカミナリおばさん

1974年5月号
030218

西内みなみ さく 堀内誠一 え

古くなった掃除機のクリーナおばさんは、ごみの島に捨てられました。まわりには洗濯機のワッシャや冷蔵庫のブリザードおじさんなど電気製品たちがたくさんいて、まだ働けるのにと、口々に文句をいっていました。そのとき、空が光って雷が落ちたかと思うと、電気製品たちはみんな動けるようになって大喜び、お祭り騒ぎをはじめましたが……。電気製品を主人公にした愉快な物語です。 

「こどものとも」218号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円

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わんぱくこぞうとおんなのこ

1974年6月号
030219

石松知磨子 さく・え

森の虫と仲良しの女の子は、いつも5人のわんぱくこぞうにいじめられていました。ある日とうとうたまらなくなって女の子が逃げだすと、野原の虫たちはみんな女の子のまわりに集まってきました。虫たちは女の子を励まし、いっしょに仕返しすることにしました。こんどは虫たちに追いかけられたわんぱくこぞうたちが、すりばち池の中へ滑り落ち……。けんかして仲良くなる元気な子どもたちのお話です。

「こどものとも」219号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円

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しちめんちょうおばさんのこどもたち

1974年7月号
030220

吉野公章 さく おのきがく え

シチメンチョウのおばさんは、沼のほとりで産みっぱなしにされた4つの卵を見つけ、温めて孵しました。生まれた子どもたちは全然似ていませんでしたが、おばさんは自分の子として育てました。やがて子どもたちは、泳いだり空を飛ぶことができるようになり、マガモの群れがやってくると、誘われて、いっしょに暖かいの国へ旅立つことになりました。力強いタッチで鳥の世界を描きます。

こどものとも」220号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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ちいさなたいこ

1974年8月号
030221

松岡享子 さく 秋野不矩 え

心の優しい百姓のおじいさんとおばあさんは、丹精こめて立派なかぼちゃを育てました。ある晩、どこからか楽しそうな祭り囃子が聞こえてきたので不思議に思った二人が音のする方へいくと、お囃子はその見事なかぼちゃの中から聞こえてくるのでした。翌日そのカボチャをもいで、夜になって中をのぞくと、なんと小さな人たちが踊っていました……。小さな小さな別世界の物語。

「こどものとも」221号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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ゆっくりくまさん

1974年9月号
030222

森 比左志 さく 西巻茅子 え

ゆっくりくまさんは食べ物を探しにやってきましたが、ドングリはリスに、栗の実はサルに、赤い木の実はウサギに、みんな先に食べられてしまいます。でも、川向こうにヤマブドウがあるのを見つけたゆっくりくまさんは、川に大きな石を一つずつ運んでいきました。できあがった飛び石づたいゆっくりくまさんもみんなもおなかいっぱいヤマブドウを食べました。のびのびした絵の絵本です。

「こどものとも」222号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

この絵本は、こどものとも創刊50周年記念出版「こどものともセレクション」の1冊として刊行されています。

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くずのはやまのきつね

1974年10月号
030223

大友康夫・西村繁男 さく 西村繁男 え

昔、くずのは山の麓の村で米の不作が続き、村人たちは粟や木の根しか食べられない日が続いていました。たみぞうとごさくの兄弟は、じいさまからキツネが嫁入りする年は豊作になるという言い伝えを聞いて、キツネを探しに雪の山に入っていきました。そこでキツネが翌年の嫁入りの相談をしているのを聞き、父親に告げますが……。労働の喜びをていねいに描いた、西村繁男の絵本デビュー作。

「こどものとも」223号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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しごとをとりかえたおやじさん

1974年11月号
030224

ノルウェーの昔話 山越一夫 再話 山崎英介 画

昔、おこりっぽくていつもおかみさんに文句を言っているおやじさんがいました。ある日、おかみさんはそんなにおこるなら仕事を取りかえようと申し出ました。おやじさんも大賛成で、翌日はおかみさんが牧草刈りにいき、おやじさんは赤ちゃんのめんどうをみながらバター作りや、牛の世話にとりくみますが、次々に大変なことが……。ドタバタぶりが何ともおかしい昔話です。

「こどものとも」224号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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トケビにかったバウィ

1974年12月号
030225

朝鮮民話 きむやんき 再話 呉炳学 画

みなしごのバウィは、とてもりこうで、すもうが大好きな少年でした。バウィは端午の節句の相撲大会で大人をたおして優勝し、子牛を賞品にもらいました。帰る途中、恐ろしい妖怪トケビに勝負を挑まれます。バウィが見あげると、トケビはどんどん大きくなります。でもトケビの秘密を探りあてた、バウィは……。知恵と勇気で魔物をたおし、お金まで手に入れてしまう痛快な昔話です。

「こどものとも」225号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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つつみがみっつ

1975年1月号
030226

土屋耕一 さく たざわしげる え

「るすにする」「かるいきびんなこねこなんびきいるか」「このこどこのこ」「このみくんさんねんさんくみのこ」「ようかんかうよ」「ぞうかもかうぞ」……。前から読んでも後ろから読んでも同じ文(回文)のオンパレード。言葉あそびの楽しさを、軽やかな絵とともに満喫する絵本です。

「こどものとも」226号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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おおきなひばのき

1975年2月号
030227

鈴木喜代春 さく 山口晴温 え

青森県の山の中に住むのぼるは、おじいさんにつれられてゼンマイ採りにいき、ヒバの林に入っていきました。のぼると同じくらいの高さの木でも15歳、かかえきれない太い木は500歳にもなると聞いてびっくりします。やがて雪の降り積もる冬、ヒバは雪の中で花を咲かせるのです。1年間の季節の移ろいの中で、ヒバの木のたくましい成長の姿を描きます。

「こどものとも」227号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円

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こうしとむくどり

1975年3月号
030228

岩崎京子 さく 小松崎邦雄 え

町はずれの小さな牧場の子ウシまるちゃんと、ムクドリのりーやは、大の仲良しでした。ある日、まるちゃんは牛市につれていかれ、売られてしまいました。新しい飼い主にトラックにのせられて運ばれていく途中、衝突事故にあって、まるちゃんは逃げだしました。そこへ、さがしながら追ってきたムクドリのりーやが飛んできました……。牧場を舞台にした別れと再会の物語。

「こどものとも」228号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円

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ねずみのおいしゃさま

1974年12月号
041006

なかがわまさふみ さく やまわきゆりこ え

大雪の晩、ねずみのお医者様は、風邪をひいたりすのぼうやの家へ往診にいくことになりました。ところが、乗っていたスクーターに雪がつまって立ち往生、近くにあったかえるの家へ避難しましたが、そこでうっかり寝入ってしまい……。 「こどものとも」11号のお話に、新たに山脇百合子が絵を描いた絵本です。

「普及版こどものとも」1974年12月号
19×26cm 28ページ 当時の定価130円

この絵本は1977年に「こどものとも傑作集」の1冊として刊行され、現在も販売されています。

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おなかのかわ

1975年2月号
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瀬田貞二 再話 村山知義 絵

ねことおうむは相談して、毎日かわるがわる相手をよんでごちそうすることにしました。ところがよくばりなねこは、おうむが出したごちそうを二人分全部たいらげたあげく、おうむも、おばあさん、ろば、王様の行列まで、まるのみにしてしまいます……。 「こどものとも」32号のお話を瀬田貞二による再話に変更し、絵も村山知義が描きなおした新版です。

「普及版こどものとも」1975年2月号
26×19cm 28ページ 当時の定価130円

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