2005/11/04
<作家インタビュー>『やっぱりおおかみ』が生まれた日 佐々木マキ
僕が作った初めての絵本で、絵本というものがどういうものか、ほとんど知らなかったんです。それまで僕、マンガ描いてましたんでね。絵本を描きたいという気持ちはあったんですが、他の方の絵本を見て勉強する、ということもなかった。絵本を知らなくて、絵本て何やってもいいんだ、ぐらいにしか思ってなかったですから。傾向と対策みたいなこと、例えば、お話の上で起承転結をつけるとかを勉強してたら、こんなふうにできたかどうか。
おおかみを主人公にしようと決めた時点で、こんなふうに主人公がひとりぼっちのままという展開が、頭の中にあったんでしょうね。シルエットのおおかみが、仲間といっしょにたくさん暮らしてても、おもしろくも何ともないですから(笑)。異質な、というか場違いな感じが、シルエットにすることによって絵の上でもかなり出てると思います。
湿ってるとかいうのが、自分でいやなんですね。もし、この絵本でも、描き手がもっとこのおおかみに感情移入してたら、それこそ、いやーな絵本になってたと思いますけれど。描いてる人が、かなりこのおおかみをつきはなしているんですね。
僕、自分のことを本当はセンチメンタルだと思ってるんです。自分というものをそんな形で出しはじめたら、とめどなくなるような気がして。よく自己表現ていいますけど、自己表現て何かなあって思います。そんなに表現するほど、自己ってたいしたもんだろうかって。自分ではなく作品。見ていただくもの。平たくいえば見せものですよね。それに徹した方が、エンターテインメントとして上質じゃないかっていう気は、昔からしています。
自分ていうのは、どんなに隠しても、作品に出てくるものですから。それで十分じゃないかと。
子どもの時、文字が読める前から、マンガを見てました。貸本マンガというのが盛んで、各町内に貸本屋さんがあるんですね。近所の子どもどうしで、それぞれ借りてきたものを回し読みしてましたから、ものすごい効率、たいへんな読書量ですよね(笑)。
やっぱり、手塚治虫はすごいと思ってました。それから杉浦茂。杉浦さんこそ、見せものに徹した人でしたね。ただもう、目の前の子どもをおもしろがらせたいって思いで。それが思いだけでなく、成功している。
杉浦さんのマンガを見ると、お話なんかどうでもよくなるんですよね。しり切れとんぼみたいに終わることもあるんですけど、まあそんなことどうでもよくて。1コマ1コマが本当におもしろくて。あんなに子どもを幸せな気分にしたマンガ家ってのは、いなかったんじゃないでしょうか。
それに比べれば、手塚さんのマンガには暗くて難しいところもあるし。やっぱり、大きなテーマ、みたいものがありますしね。……うん、杉浦さん、何もなかった(笑)
(「こどものとも年中向き」2000年11月号折込付録より一部省略して再録)
※杉浦茂の作品は、『猿飛佐助』(ちくま文庫)、『少年西遊記』『少年児雷也』(河出文庫)、『杉浦茂マンガ館(全5巻)』(筑摩書房)などでお読みいただけます。
佐々木マキ(ささき まき)
1946年、神戸市生まれ。京都市立美術大学中退。漫画家、イラストレーター、絵本作家。絵本に『やっぱり おおかみ』『くった のんだ わらった』『おばけがぞろぞろ』『ぼくとねずみの いそげ、じどうしゃ!』『まじょのかんづめ』『そらとぶテーブル』(以上、福音館書店)、「ねむいねむいねずみ」シリーズ(PHP研究所)、『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』(絵本館)など、多数がある。京都市在住。
11月 4, 2005 エッセイ1973年 | Permalink
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1973(昭和48)年度にあったこと
菊田医師赤ちゃん斡旋事件:宮城県の菊田昇医師が、10年間に約100人の赤ちゃんを子どものいない夫婦に実子として善意の斡旋をしていたことが報道される。その後菊田医師は有罪となるが、この事件をきっかけに、6歳以下の養子は実子として認めるという「特別養子制度」が1987年に新設されることとなった。(4月)
春闘共闘委員会、年金改善、週休2日制など「制度的要求」を掲げ、交通ゼネスト(国労72時間ストなど)を中心に68単産310万人参加の実力行使。(4月)
米国、民主党全国委員会本部盗聴に関連したウォーターゲート事件が政治スキャンダルになる。(4月)
東京都江東区議会が杉並区のゴミの夢の島への搬入阻止を決議。このため東京都清掃局は杉並区内のゴミ収拾を中止した。都が計画していた杉並区内のゴミ焼却場建設に杉並区民が建設反対運動を行っていたため江東区が反発したもの。(5月)
日航機が日本赤軍にハイジャックされアラブ首長国連邦のドバイ空港へ着陸。3日後リビアのベンガジ空港で乗客・乗員を全員解放し、犯人5人はリビア当局に逮捕された。(7月)
金大中事件:東京を訪問していた韓国の野党・新民党代表で元大統領候補・金大中がホテルから5人の韓国人によって誘拐された。5日後ソウル市内の自宅で発見されたが、KCIAの犯行と見られ、日韓の外交問題に発展。(8月)
滋賀銀行9億円横領事件:山科支店預金係員が約6年間で9億円にのぼる業務上横領を行った疑いで指名手配され逮捕。(9月)
石油ショック: OPEC(石油輸出国機構)の原油値上げと供給量削減を受けて、メジャー(国際石油資本)各社は日本にも原油価格の30%引き上げを通告。これらの不安材料が物価の急激な上昇を招き、トイレットペーパーの買い占め騒ぎにまで発展した。(10月)
江崎玲於奈、エサキダイオードの発明でノーベル物理学賞を受賞。(10月)
熊本・大洋デパート火災(104人死亡、121人重軽傷、デパート火災史上最悪)(11月)
全国消費者物価、前年同月比26.3%上昇。(2月)
フイリピン・ルバング島の山中で隠れ住んでいた小野田寛郎元少尉が戦後29年ぶりに発見され、帰国。(2月)
「超能力者」ユリ・ゲラーのスプーン曲げがテレビ放映され、超能力ブーム起こる。(3月)
主なベストセラー:『日本沈没』小松左京(光文社)、『ぐうたら人間学』遠藤周作(講談社)、『にんにく健康法』渡辺正(光文社)
テレビ:『子連れ狼』(NTV)、『ドラえもん』(NTV)、『ひらけ!ポンキッキ』(フジテレビ)、『刑事コロンボ』(NHK)、『うわさのチャンネル』(NTV)、『寺内貫太郎一家』(TBS)など放送開始。
新商品:「オセロ」(ツクダオリジナル)、「カセットデンスケ」(ソニー)、「くれ竹筆ぺん」(呉竹精昇堂)、「ブルガリア・ヨーグルト」(明治乳業)、「あさげ」(永谷園)
ヒット曲:『学生街の喫茶店』ガロ、『喝采』ちあきなおみ
この年に登場したもの:プラスチック・ゴム等のゴミの分別収集(東京都清掃局)、「シルバーシート」(国鉄)
福音館書店では:月刊誌「子どもの館」創刊(6月)(1983年3月第118号をもって休刊)
11月 4, 2005 1973年そのころあったこと | Permalink
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きいたぞ きいたぞ
1973年4月号

小沢良吉 さく・え
早耳の野ウサギは「きいたぞきいたぞ」と駆けだしました。結婚式をしていたウサギの花嫁花婿も、それを見て「いったいなにがおこったの」と追いかけます。トランプをしていたイヌたちも、食事をしていたネコたちも、カエルや虫たちも、何事だろうと後を追って走りだします。いってみると、そこにはネズミの赤ちゃんが……。誕生の喜びをシンプルなストーリーで描きます。
「こどものとも」205号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
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いちごばたけの ちいさなおばあさん
1973年5月号

わたりむつこ さく 中谷千代子 え
いちご畑の土の中に住んでいる小さなおばあさんの仕事は、いちごに赤い色をつけることでした。ある年、春はまだなのに暖かくなって花が咲きはじめたので、おばあさんは大忙し。地中の奥深くから水を汲みあげてお日さまの光を混ぜ、石の粉を入れて赤い水を作ると、せっせといちごの実を染めていきましたが、雪が降ってきて……。身近な自然の不思議を感じさせるファンタジーです。
「こどものとも」206号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円
この絵本は1983年に「こどものとも傑作集」の1冊として刊行され、現在も販売されています。
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おひさまを ほしがった ハヌマン
1973年6月号

インドの大昔の物語「ラーマーヤナ」より A. ラマチャンドラン さく・え 松居 直 やく
風の神の子どもハヌマンは、木の間から顔を見せているお日さまのすばらしさに心を奪われ、空高く舞いあがるとお日さまに向かってどんどん近寄っていきました。驚いたお日さまが助けを呼ぶと、神々の王インドラが通りかかり、ハヌマンをうちたおしてしまいます。風の神は悲しみのあまり姿を消し、この世は空気がなくなって死の世界に……。インドの現代美術を代表する画家による絵本です。
「こどものとも」207号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
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かずくんの きいろいながぐつ
1973年7月号

山下明生 さく 柏村 勲 え
かずくんは浜辺で砂の船を作っていましたが、お父さんの船を迎えに港へいった間に大波がきて、煙突にした黄色い長靴を海に流されてしまいました。海に沈んだ黄色い長靴の中に、ウミウシやイセエビ、そしてタコが入りこみます。でもタコはウツボに襲われ、長靴をかぶったまま蛸壺に……。その蛸壺を引きあげたのは、かずくんのお父さんでした。海の中の世界を美しく描きます。
「こどものとも」208号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
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えんにち
1973年8月号

五十嵐豊子 え
神社の境内に、細い柱と板が組み立てられ、露店ができあがっていきます。綿あめ屋、金魚すくい、海ほおずき、イカ焼き、ヨーヨーつり……。境内は色鮮やかな露店でいっぱいになり、兄妹は暗くなるまで縁日を楽しんで、最後は両親と帰ります。お店とそこに集まる人たちを見ているだけで、縁日のワクワクする気分が伝わってくる、文字のない絵本です。
「こどものとも」209号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
この絵本は、こどものとも創刊50周年記念出版「こどものともセレクション」の1冊として刊行されています。
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とうだいのひまわり
1973年9月号

にいざかかずお さく・え
灯台に住んでいる女の子ひろみちゃんは、袋のついた風船が落ちているのを見つけました。袋には、ひまわりの種と「大事に育ててください」という手紙が入っていました。ひろみちゃんは種を蒔き、水をやり、嵐の日にはずぶぬれになって垣根に茎を結びつけ、大切に育てました。やっと大きな花が咲いて、とれた種を、こんどは風船につけて飛ばしました。
「こどものとも」210号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円
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やっぱり おおかみ
1973年10月号

ささきまき さく・え
ひとりぼっちのオオカミは、仲間を探して毎日うろついています。ウサギなんかいやだけど、ブタもシカもみんな仲間がいて楽しそう。自分に似た子はいないかなと探しても、誰もいません。「やっぱりおれはオオカミだもんな、オオカミとして生きるしかないよ」と思うと、ふしぎに愉快な気持ちになってくるのでした。佐々木マキの初めての絵本。斬新なテーマの意欲作です。
「こどものとも」211号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円
この絵本は1977年に「こどものとも傑作集」の1冊として刊行され、現在も販売されています。
ささきまきさんのインタビューはこちらからご覧ください。
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ババヤガーのしろいとり
1973年11月号

ロシア民話 内田莉莎子 再話 佐藤忠良 画
マーシャは両親の留守中、弟のワーニャのお守りを頼まれていましたが、いいつけを守らず遊びにいっているあいだに、ワーニャを白い鳥にさらわれてしまいました。白い鳥を追いかけていったマーシャは、ペチカやりんごの木やミルクの川に助けられ、山んばババヤガーのもとから、弟を無事に救いだします。ロシアの子どもたちにはおなじみの昔話を佐藤忠良が描きました。
「こどものとも」212号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円
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まのいいりょうし
200号記念増刊号2

瀬田貞二 再話 赤羽末吉 画
猟師は息子の七つの祝いのために、山に猟にいきました。池に13羽のカモがいて、筒がへの字に曲がった鉄砲で岸近くの1羽を撃つと、弾がジグザグに飛んでいって12羽に命中し、13羽目にも傷をおわせました。傷を負ったカモが暴れると、大きなコイがとびあがって藪に落ち、藪にいたヤマドリは首が折れて……。幸運が幸運を呼び、ごちそうをどっさり手に入れる、おめでたい昔話です。
「こどものとも」200号記念増刊号2
26×19cm 32ページ 当時の定価150円
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まっかっかなむすめがまどからのぞいている
1973年12月号

木乃実 光 編 正田 壤 画
「なみだをながしながら だんだんちいさくなりました」答は「ろうそく」(日本)。「てあしがないのに とびらをあける」答は「かぜ」(モンゴル)。「おつきさまがおとした おひさまがそれをひろった」答は「よつゆ」(ハンガリー)。絵を見ながら答をあてる、世界のなぞなぞ17編。さて、この絵本の題名のなぞなぞの答は?
「こどものとも」213号
26×19cm 32ページ 当時の定価150円
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さらわれたりゅう
1974年1月号

今昔物語より 沼野正子 さく・え
昔、ある村では日照りの夏になると、池のまわりで龍神に雨乞いのお祭りをしていました。岩山に住む天狗は、龍ばかりが奉られるのをくやしく思っていましたが、龍が小さな蛇の姿になって昼寝しているとき、トンビの姿になって、蛇をつかまえると山の岩のすきまに閉じこめてしまいました。次に天狗は、祭りをおこなっていたお坊さんをさらってきますが……。今昔物語の話をダイナミックに描きます。
「こどものとも」214号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
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うおがしのあさ
1974年2月号

森下 研 さく 寺戸恒晴 え
あきらの家は魚屋です。ある日あきらはお父さんに、魚河岸につれていってと頼みました。翌朝、まだまっ暗なうちに家を出て魚河岸に着いたあきらは、せりに見とれていてお父さんを見失い、迷子になってしまいました。魚を運ぶ人たちがあわただしく行きかうなかで、あきらの目からは涙があふれてきましたが……。魚河岸の活気をいきいきと伝えます。
「こどものとも」215号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
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よわむしなじてんしゃ
1974年3月号

岩崎京子 さく 保坂良平 え
すててあった子ども用の古自転車を、お父さんが直してきれいに赤くぬってくれました。ゆりこははりきって自転車で出かけますが、トラックがくるとよろよろ、坂道ではふらふらきいきい……自転車はこわがって、ゆりこの思い通り走りません。でも家に帰ってくると、お母さんのぐあいが悪いので、ゆりこは自転車で夕飯の買い物にいくことになりました。子どもの自立心を自転車に託して描きます。
「こどものとも」216号
19×26cm 32ページ 当時の定価150円
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ぼくのはね
1974年3月号

きたむらえり さく・え
リスの“ころ”は鳥の羽を集めるのが大好き。ある天気のいい日に、集めた羽を一枚ずつ並べて干しました。ところが林に出かけて帰ってくると、干していた羽が一枚もありません。ムクドリが卵を産むために持っていったのです。ころは羽を譲ることにします。それからしばらくして、カラスがムクドリの巣を狙っているのを見たころは……。『こぐまのたろ』の作者による動物たちのドラマです。
「普及版こどものとも」1974年3月号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
11月 4, 2005 「こどものとも年中向き」バックナンバー1973年 | Permalink
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