2005/10/20
「12のつき」と「森は生きている」 内田莉莎子
(このエッセイは「こどものとも年中向き」1989年3月号の折込付録に掲載されたものの再録です)
久しぶりに『12のつきのおくりもの』を手にした。この絵本ができてからもう18年もたっている。だが丸木俊さんの絵はいま見ても新鮮でとてもすてきだ。
物語はいたって単純、きわめて素朴。気だてのやさしい働きものの娘が、根性のまがったまま母とそのつれ子のいじめを、12の月の精の助けで切りぬけ幸せになるというごくふつうの昔話である。しかし実に色彩にあふれ、しかもしぜんに音楽がきこえてくるような物語なのだ。ま冬の雪深い森。その奥に燃えさかるたき火。それをかこむ1月から12月の月の精は、春の美しい若者たちから冬の老人まで。そして娘の願いが聞きとどけられてま冬の森は三たび雪がとけて、春になり、夏になり、秋になり、またきびしい冬にもどる。その時どきの色どりになるすみれ、いちご、りんご。そして数々の難儀をのりこえた娘は、春がくるといちばん若い3月のような若者と結婚するのだ。まさにミュージカルにぴったりのお話である。マルシャークの不朽の名戯曲「森は生きている」は、この民話をもとに書かれたのである。
日本での「森は生きている」の初演当時、私は働いていた幼稚園の子どもたちといっしょに見にいった。子どもたちも大人たちもそろって感動し興奮した。クリスマスに幼稚園版「森は生きている」を上演してしまったほどである。もう30数年昔のことだが、「森は生きている」はその後「俳優座」から「劇団仲間」にうけつがれ毎年上演されている。
『12のつきのおくりもの』を読んでくれた子どもたちにぜひ「森は生きている」の舞台を見せてあげたい。林光さんの作曲した12つきのたき火の歌を聞かせたい。12の月がたき火をかこんだように、ぐるっと輪になって思いっきり元気よくたき火の歌を歌ってほしい。30数年前のあの子どもたちのように。思い出と思い出がかさなりあって、思わずそんな気持がこみあげてきた。
注記
* 『12のつきのおくりもの』は「こどものともセレクション」の1冊として2006年1月中旬に復刊されました。
* 『森は生きている』(マルシャーク作 湯浅芳子訳)は岩波書店より岩波少年文庫の1冊として刊行されています。
* 「森は生きている」の本邦初演は、劇団俳優座により1954年5月俳優座劇場でおこなわれました。(演出/青山杉作 出演/岩崎加根子、永井智雄、滝田裕介他)
内田莉莎子(うちだ りさこ)(1928−1997)
東京に生まれた。早稲田大学露文科卒業。1964年、ポーランドに留学。ロシアや東欧を中心に数々の海外児童文学・昔話・絵本を翻訳・紹介。主な訳書に『おおきなかぶ』『てぶくろ』『マーシャとくま』『しずくのぼうけん』『もぐらとじどうしゃ』『りんごのき』、『ロシアの昔話』(以上、福音館書店)など多数ある。
10月 20, 2005 エッセイ1971年 | Permalink
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1971(昭和46)年度にあったこと
連続女性殺人犯大久保清逮捕。(8人の女性を車で誘拐し殺害)(5月)
横綱大鵬が引退。(優勝32回、横綱在位58場所)(5月)
スモン病患者が国とキノホルムを製造販売していた製薬会社対して賠償請求の訴訟を起こす(5月)
新宿副都心の超高層ビル第一号として京王プラザホテルが完成。(地上170m 47階建)(6月)
YS-11「ばんだい号」墜落事故。(乗員4人乗客64人死亡)(7月)
阪神の江夏豊がオールスター戦で9連続奪三振。(7月)
岩手県雫石町上空で自衛隊機が全日空機に衝突。(全日空機の乗員乗客162人は全員死亡)(7月)
アメリカのニクソン大統領、金とドルの交換停止などのドル防衛措置を発表。(ニクソン・ショック)(8月)
天皇・皇后ご夫妻がヨーロッパ7ヵ国親善訪問に出発。(9月)
近鉄特急トンネル内正面衝突事故。(25人死亡、354人重軽傷)(11月)
沖縄返還協定の批准・強行採決に反対して、全国各地で反対闘争。日比谷公園では「松本楼」炎上。(11月)
横井庄一元軍曹が戦後28年ぶりにグァム島で発見される。(1月)
第11回冬季オリンピック大会が札幌で開催。70m級ジャンプで、日本の3選手が金銀銅を独占。(2月)
連合赤軍が軽井沢の浅間山荘に人質をとって籠城。武装警官750人が山荘を包囲し10日間におよぶ銃撃戦の後逮捕。(2月)
高松塚古墳(奈良県明日香村)で極彩色の壁画を発見。(3月)
主なベストセラー:『日本人とユダヤ人』イザヤ・ベンダサン(山本書店)、『二十歳の原点』高野悦子(新潮社)、『ラブ・ストーリィ』E・シーガル(角川書店)
テレビ:『仮面ライダー』(NET・現テレビ朝日)、『天才バカボン』(NTV)、『スター誕生』(NTV)、『ルパン三世』(NTV)、『木枯らし紋次郎』(フジテレビ)など放送開始。
新商品:スティックのり「ピット」(トンボ鉛筆)、「アルミ缶ビール」(朝日麦酒)、「カップヌードル」(日清食品)、家庭用自動もちつき器「もちっ子」(東芝)、「小枝チョコ」(森永製菓)
ヒット曲:『わたしの城下町』小柳ルミ子、『知床旅情』加藤登紀子、『また逢う日まで』尾崎紀世彦
この年に登場したもの:「自動出改札装置」(大阪、地下鉄四つ橋線)、「マクドナルド」、
福音館書店では:「ピーターラビットの絵本」刊行開始。(11月)
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るるの たんじょうび
1971年4月号

征矢 清 さく 中谷千代子 え
かわいがっている小さなネコのるるがいなくなってしまいました。かおるは公園で黒ネコやトラネコに聞いてみますが、もったいぶってなかなか教えてくれません。ようやくネコたちに案内されて、茂みをぬけ小川をとびこして広場に出ると、動物たちが集まり、るるの誕生日のお祝いが始まるところでした。子どもと動物の交流を明るい色彩の水彩画で描きます。
「こどものとも」181号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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ほんとうだよ
1971年5月号

松見 秀 さく・え
池のそばに住んでいるカエルのがーちゃんは春になっておおよろこび。池の中の魚たちにも、外の春のようすを一生懸命話してやりました。でも池の魚たちは、黄色い菜の花畑のことも、小鳥がうたっていることも、電車がごーごー走っていることも信じません。そのとき一ぴきの魚が釣り針にかかって引きあげられてしまいました……。春の色彩にあふれた絵本です。
「こどものとも」182号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
この絵本はこどものとも創刊50周年記念出版「こどものともセレクション」の1冊として刊行されました。
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かわとかくれんぼ
1971年6月号

司 修 さく・え
海の水がどこからくるのか不思議に思ったじろーは、カモメに教えられ、川をさかのぼっていきました。アヒルに川の終点は山にあると聞いて、山に入っていくと川は細く細くなっていきます。じろーは山から聞こえてくる動物たちの声に導かれ、滝をこえ、ついに川の赤ちゃんを見つけます。セピア1色の背景の中で子どもの心の冒険を描きます。
「こどものとも」183号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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ふしぎな さーかす
1971年7月号

安野光雅 さく・え
真夜中の12時。机の上で小人たちによるサーカスが始まります。まずはコップの太鼓、スプーンのバイオリン、マッチ棒のフルートなどの楽団が登場。そしてペン先のジャグリング、風船の玉乗り、書き割りの絵から現れるライオン……。やがて朝になると、小人の姿は消えたけれど……。さまざまな絵遊びが繰り出される安野光雅の「ふしぎなえ」のシリーズ第3弾。
「こどものとも」184号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
この絵本は1981年に「安野光雅の絵本」の1冊として刊行されて、現在も販売されています。
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まぐろぎょせん てんゆうまる
1971年8月号

森下 研 さく 金野新一 え
マグロ漁船てんゆうまるは、広い太平洋で半年以上も続く漁に出発しました。アメリカの近くまで来たときに、ようやく漁が始まります。長い縄に餌のサンマをつけて流すと、大きなマグロが次々かかりました。ときにはシャチにマグロを狙われたり、嵐にあったりしながらも、元気に漁を続け、大漁で日本に帰ります。漁船と海の男たちの勇壮な活躍を描く絵本です。
「こどものとも」185号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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イカロスのぼうけん
1971年9月号

ギリシア神話 三木 卓 再話 井上 悟 画
ミノス王の迷宮を作ったダイダロスは、息子のイカロスとともに高い塔にとじこめられていました。窓から海と空を眺めているうちにダイダロスは、空を飛んで逃げ出そうと考えました。鳥の羽を集めて翼を作り、二人は牢の窓から飛び出ましたが、父の注意も聞かず、イカロスはどこまでも高く飛んで太陽に近づいたため……。ギリシア神話を少年イカロスの視点で再話した絵本です。
「こどものとも」186号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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ゆうこの あさごはん
1971年10月号

やまわきゆりこ さく・え
寝ぼうしたゆうこは、朝ごはんをひとりで食べることになりました。バターのついたパンと牛乳とチーズ、それから顔がかいてあるゆで卵。すると、ゆで卵がいっしょに冒険にいこうといいました。小指に塩をつけてなめるとゆうこは小さくなります。ふたりはいっしょに庭におり、クヌギの木に登ってスズメのように空を飛んでみました。山脇百合子が文も絵のかいた初めての絵本です。
「こどものとも」187号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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ちいさなしまのはなし
1971年11月号

福田庄助 さく・え
小さな島に男の子とおじいさんとおばあさんがたくさんの動物たちといっしょに楽しく暮らしていました。ある日、地面がごうごうと鳴って、真っ黒な煙が空に広がり、熱い風とともに石ころや灰がふってきました。島の山から火が吹き出したのです。みんなで海の水をかけましたが、火は消えません……。火山島の爆発をダイナミックな絵で展開する絵本です。
「こどものとも」188号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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12のつきの おくりもの
1971年12月号

スロバキア民話 内田莉莎子 再話 丸木 俊 画
マルーシカは継母とその娘にいつもつらい仕事ばかりさせられていましたが、美しい娘に育っていました。継母たちはマルーシカを憎み、寒い冬の日、森でスミレを摘んでくるようにと命じました。泣きながら雪に埋もれた深い森にはいっていくと、大きなたき火を囲んだ12の月の精に出会いました。話を聞いた12月の精が3月の精に席をゆずると……。丸木俊が美しく描いた昔話の絵本です。
「こどものとも」189号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
この絵本はこどものとも創刊50周年記念出版「こどものともセレクション」の1冊として2006年1月中旬にハードカバーで刊行されます。
再話の内田莉莎子さんのエッセイはこちらから。
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おおさむ こさむ
1972年1月号

瀬川康男 え
「おおさむ こさむ」「うさぎ うさぎ」など、昔から子どもたちに歌われ、誰もが幼いころ口ずさんだ13のわらべうたに、瀬川康男がひとつひとつシンプルで印象的な絵をつけた絵本です。
「こどものとも」190号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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うしかたと やまうば
1972年2月号

日本の昔話 瀬田貞二 再話 関野凖一郎 画
牛方がウシの背にサバを積み山越えしていると、山姥が追いかけてきて、サバをくれといいました。サバを1ぴきやると、また追いかけてきて、次々サバを食べ、ついには牛まで食べてしまいました。牛方は炭焼きの俵に隠れ、沼のふちの柳の木に隠れて逃げのび、森かげの家の梁の上に隠れますが、そこに帰ってきたのは山姥でした……。おなじみの日本の昔話の絵本です。
「こどものとも」191号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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からすのたからもの
1972年3月号
周 はじめ さく 小松崎邦雄 え
白樺林に住むカラスの夫婦に3羽の子ガラスが生まれました。父さんガラスと母さんガラスはミミズや虫をさがしては、子ガラスたちに食べさせていました。ある日、お百姓の家の庭で見つけたビー玉を持ちかえると、子ガラスが喜んだことから、カラスは、腕時計や眼鏡など、いろいろな「宝物」を巣に集めはじめます……。カラスの習性に基づいたユーモラスなお話です。
「こどものとも」192号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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