2005/10/14
夫・土方久功の思い出 土方敬子
(このエッセイは「普及版こどものとも(現在の「こどものとも年中向き」)」1979年7月号の折込付録より再録しました)
土方久功は変わった一生を送った人でした。美術学校の彫刻科を卒業したのですが、個展を1回してから29才のとき南洋パラオ島へ渡りました。原始彫刻へのあこがれもあったのですが、かねてから興味を持っていた南方の土俗研究も目的の一つでした。パラオ島から奥の、日本人のひとりもいないサテワヌ島に移り、島民とともに暮らしました。食物もみな島の人と同じ物を食べて、島の人になりきって7年過ごしました。そして言葉を覚えてから、島の長老たちからいろいろのお話を聞きました。そうして調べた資料で、日本へ帰ってから『サテワヌ島民話』や『パラオの神話伝説』、『流木』などの本をかきました。
太平洋戦争が始まり、日本に帰ってからは、南洋でのスケッチをもとにして彫刻に取り組みました。病気をしてからは水彩を主にかきました。死ぬまで南洋を彫りつづけ、南洋をかきつづけました。
絵本をかき始めたのは『おおきなかぬー』のさし絵をかいたのが縁で福音館からおすすめがあり『ゆかいなさんぽ』が出来上がりました。
終戦後、弟夫婦と一緒に住んでいたときに生まれた姪の邦子がオジチャンにべったりで、絵をかいてもらったり、お話をしてもらったりしていました。そのとき自分でお話を作りながら、聞かせていたのを思い出して『ゆかいなさんぽ』をかきました。
土方おじさんは子どもが好きでした。私たちには子どもがありませんでしたが、近所の子どもたちと仲良しでした。外に出ると子どもたちが寄ってくるので、からかいながら一緒に遊んでいました。その中の一人のやんちゃ坊やが「やんたくん」となって「母の友」に連載(1972年4月号〜12月号)した話の主人公になりました。
若いときからの詩人で、死ぬまでたくさんの詩をかきつづけました。その中の一編に「蟇帖(がまちょう)」があります。この蟇もおじさんの愛する友だちで、庭の花壇の中からノソノソ歩いてくる小さい蟇大きい蟇を見て喜んでいました。心の中で蟇とお話していたのでしょう。
今日も朝 窓の戸繰れば
はいはい ここですよと
蟇の子 にっこり
◇
もの言はぬ蟇の子なれど
もの言ひたげな眼(まなこ)あり
その奥に心も見えて
◇
蟇の子に言ってやりたきことあれど
蟇の子も
何か問ひたげな顔すれど
◇
蟇の子よ私がお前を愛してる
お前も私を愛しゐるようだ
だがお互の間に言葉があったら
お互の間がこんな風で続くかどうか
家が豪徳寺に近いので鳥がたくさん飛んできました。この鳥も愛して毎日パンをちぎってはまいていました。その根気のよさと愛情に感心していました。
土方久功(ひじかた ひさかつ)(1900-1977)
1900年、東京に生まれた。1924年、東京美術学校彫刻科卒業。1929年に南洋パラオ島に渡り、さらに1931年にヤップ離島のサテワヌ島へ渡って、島民と生活をともにしながら、彫刻の制作と島の民俗学的な研究を行った。戦後は1951年から数回個展を開催し、毎年新樹会展に出品する。民俗学の研究家としても知られており、著書に『流木』『ミクロネシア・サテワヌ島民族誌』(以上、未来社)、「土方久功著作集」(三一書房)、詩集『青蜥蜴の夢』『土方久功遺稿詩集』(以上、草原社)、絵本に『おおきなかぬー』『ゆかいなさんぽ』『ぶたぶたくんのおかいもの』『おによりつよいおれまーい』(以上、福音館書店)などがある。
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1970(昭和45)年度にあったこと
大阪の地下鉄工事現場でガス爆発事故。道路150メートルが深さ10メートルも陥没炎上し、家屋26戸が全半焼、336戸が被害を受け、死者79人、重軽傷者420人などの大惨事となった。(4月)
ビートルズ解散。(4月)
三浦雄一郎がエベレストのサウスコル(7985m)からスキーによる滑降に成功。(5月)
日本山岳会エベレスト登山隊の松浦輝夫と植村直己が日本人初のエベレスト登頂。(5月)
ペルーでマグニチュード7.7の大地震(死者5万人、負傷者60万人)(5月)
日米安保条約自動延長(6月)
東京都杉並区で初の光化学スモッグ発生。高校のグラウンドで生徒が倒れ、東京都公害研究所は全国で初めての光化学スモッグ公害と推定。(7月)
広中平祐、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞。(9月)
東京銀座で初のウーマンリブのデモ。(10月)
三島由紀夫、市ケ谷の自衛隊東部方面総監部で割腹自殺。(11月)
コザ市で交通事故の処理をめぐりアメリカ憲兵隊と群衆が対立。米軍は群衆5000人に対し武装兵400人を出動。(2月)
新東京空港公団、成田空港建設予定地内の第一次強制代執行に着手。(2月)
名古屋で開催された世界卓球選手権大会6年ぶりに中国が参加し、米国選手団を中国に招待すると発表。これを機に米中の交流が始まり「ピンポン外交」と呼ばれた。(3月)
主なベストセラー:『冠婚葬祭入門』塩月弥栄子(光文社)、『誰のために愛するか』曽野綾子(青春出版社)、『冬の旅(上・下)』立原正秋(新潮社)
テレビ:『あしたのジョー』(フジテレビ)、『ありがとう』(TBS)、『遠山の金さん捕物帖』(NET)、『奥様は18歳』(TBS)、『六輔さすらいの旅・遠くへ行きたい』(NTV)、『新婚さんいらっしゃい!』(TBS)など放送開始。
新商品:美容健康器「スタイリー」(アンテ社)、男性化粧品「マンダム」(丹頂株式会社)、「アメリカン・クラッカー」(アサヒ玩具)
ヒット曲:『黒ネコのタンゴ』皆川おさむ、『ドリフのズンドコ節』ザ・ドリフターズ、『圭子の夢は夜ひらく』藤圭子
この年に登場したもの:「歩行者天国」(銀座、新宿、池袋、浅草)、観光キャンペーン「ディスカバー・ジャパン」(国鉄)、「ダンキン・ドーナツ」、「すかいらーく」、「ケンタッキー・フライドチキン」
福音館書店では:「スーパーブックス」刊行開始(4月)。(1971年4月より「ペーパーバックス」と改名)
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とこちゃんは どこ
1970年4月号

松岡享子 さく 加古里子 え
赤い帽子と青い半ズボンの元気な男の子、とこちゃん。市場でお母さんがおしゃべりしているまに、とことこかけだして、どこかへいってしまいました。人ごみの中をさがしていくと、ああ、いたいた! 動物園、浜辺にお祭り、デパート……人ごみにまぎれたとこちゃんを探そう! 絵さがしの絵本の元祖ともいえる、子どもの大好きな絵本です。
「こどものとも」169号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
この絵本は1970年に「こどものとも傑作集」の1冊として刊行されて、現在も販売されています。
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だぶだぶ
1970年5月号

なかのひろたか さく・え
けんぼうは兄さんのお下がりのだぶだぶの上着とだぶだぶの帽子を着せられて、むくれながら遊びにでかけました。でも、途中で出会ったネコとイヌを大きなだぶだぶのポケットに入れ、ハトをだぶだぶの帽子に入れてやると、うれしくなって、森の中を探険することにしました。そこへオオカミがやってきて……。だぶだぶの服のおかげで危機をきりぬける、スリル満点の絵本です。
「こどものとも」170号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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だれかがぱいをたべにきた
1970年6月号

神沢利子 さく 井上洋介 え
おばあさんが自慢のパイを焼いて一人で食べようとしていると、風に飛ばされた帽子が頭にすっぽりかぶさり、目隠しをしてしまいました。その時、ぎいーと扉があいたので風かと思えば、ぶうーとうなり声が聞こえたのでブタだと思って追い出そうとしましたが、がちゃん、ぺちゃぺちゃ、ぶるぶるるー、ずしんずしんと音がして……。音からいろいろな動物を想像していきますが、最後に思わぬオチがつく愉快なお話です。
「こどものとも」171号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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たなばたまつり
1970年7月号

熊谷元一 さく・え
七夕祭りがきました。ちよこちゃんたちは六日の朝、里芋の葉から取った露で墨をすり願いごとを書いた短冊や、切り紙細工を竹に飾り、七夕人形に自分たちの着物を着せて軒下につるします。とりたての野菜を台にならべ、豊作を祈ってお供えをします。七日には、朝、お墓の掃除にいき、夜には提灯をもって歌をうたいながら町を練り歩きます。昔ながらの七夕の民俗をていねいに描いた絵本です。
「こどものとも」172号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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とびうお
1970年8月号

末広恭雄 さく 吉崎正巳 え
春、南の海からやってきたトビウオたちは、海に浮いているホンダワラに卵を産みつけました。卵からかえった子どものトビウオたちは、ハナオコゼやマグロなどの大きい魚に襲われて仲間を減らしながらも成長し、逃げるために飛ぶ練習を始めます。やがて元気に飛べるようになると、漁船に飛びこんでしまうものもいますが、秋になるとみんなで南の海へ帰っていきます。躍動感あふれるトビウオを生態に即して描きます。
「こどものとも」173号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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おおきなおみやげ
1970年9月号

松野正子 さく 吉本隆子 え
お母さんが町の病院から帰ってくる日、たけしは待ちきれなくて駅に迎えにいきました。途中で会った友だちに、お母さんがおみやげをもって帰ってくると自慢してしまったたけしは、なかなか現れないお母さんを駅で待ちながら、うそをついてしまったのではないかと心細くなってきます。そこへやってきたおばあちゃんに連れられて家に帰ると、お母さんがタクシーをおりてきました。楽しみに待っていた大きなおみやげ、それは、赤ちゃんでした。
「こどものとも」174号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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ぶたぶたくんの おかいもの
1970年10月号

土方久功 さく・え
子ブタのぶたぶたくんはお母さんから、買い物をたのまれました。ひとりでパン屋さんにいってパンを買い、八百屋さんにいくと、からすのかあこちゃんに会いました。こんどはかあこちゃんといっしょにお菓子屋にいくと、こぐまくんに出会い、帰り道はみんな一緒に近道を通って帰ります。お店屋さんの人もみんなユニークな、愉快な絵本です。
「こどものとも」175号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
この絵本は1985年に「こどものとも傑作集」の1冊として刊行されて、現在も販売されています。
作者土方久功さんについては、こちらのエッセイをご覧ください。
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ねむりむし じらぁ
1970年11月号

沖繩民話 川平朝申 再話 儀間比呂志 版画
じらぁは、両親が年とって貧乏なのに、働かず毎日寝てばかりいました。ある日じらぁが母親にシラサギがほしいというと、両親は無理をしてシラサギを手に入れてやりました。するとじらぁは金持ちの家に忍びこみ、木に登って自分を婿にするよう大声を張り上げ、シラサギを放しました。家の主人は神様のお告げと勘違いし……。沖縄の昔話を力強い木版画で描いた絵本です。
「こどものとも」176号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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クリスマスがせめてくる
1970年12月号

小野かおる さく・え
クマの子どもぷうたとぷうまは、母さんと一緒に大きなモミの木の穴で冬眠していました。ある日、「クリスマスがやってくる」という声が聞こえ、外が騒がしいのでのぞいて見ると、小さなモミの木が掘りおこされてなくなっていたのでびっくり。2ひきは「クリスマスがせめてくる」と思って、戦いの準備を始めますが……。とびきり愉快なクリスマスの絵本です。
「こどものとも」177号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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びんぼうこびと
1971年1月号

ウクライナ民話 内田莉莎子 再話 太田大八 画
ある村に働き者のお百姓がいましたが、朝から晩までせっせと働いても、どういうわけか村でいちばん貧乏でした。ある日ようやくパンとベーコンを手に入れたお百姓は、嬉しくなってバイオリンを弾きはじめました。すると部屋の隅でやせっぽちの小人たちが踊っているのを見つけ、話を聞くと、ずっとここに住んでいる貧乏こびとだというではありませんか……。
「こどものとも」178号
26×19cm 28ページ 当時の定価100円
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かみなりこぞうが おっこちた
1971年2月号

瀬田貞二 さく 杉本健吉 え
昔、ある山のモミの木に雷小僧が落っこちて、アカゲラはくちばしが割れ、リスはしっぽがちぎれ、ウサギは耳が折れてしまいました。雷小僧も角が折れ太鼓も破れて天に帰れなくて困っています。そこへ通りかかった鍛冶屋が、鉄を打ち、動物たちの体や雷の角や太鼓も、すっかり直してくれました。雷小僧はお礼に病気の治る温泉を沸きださせ……。七五調で調子よく語られる物語です。
「こどものとも」179号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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ぴちこちゃんの けっこん
1971年3月号

ベラ・ヘルド 原作 木島 始 文 桂 ゆき 画
ネズミのぴちこちゃんはすばらしくきれいでかわいいので、動物みんなが結婚したいなあと考えていました。でも、ウサギのぴょこりくんも、ゾウのどしりくんも、ヘビのぬるりくんも、サルのふらりくんも、みんなぴちこちゃんに断られ、悲しそうに帰っていきました。でも、おしまいにやってきたネズミのちゅーたくんに、ぴちこちゃんは……。プロポーズする動物の表情がかわいらしい絵本です。
「こどものとも」180号
19×26cm 28ページ 当時の定価100円
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