2009年4月23日 (木)

あの人に会いに・玖保キリコさん

Photo_3 母さんはカエルのケロコさん、父さんは犬のドックさんと、そして息子はブタのトンキーくん。
この家族の日常を描いた「三匹、おうちにいる」は、今年で連載5年目になります。

作者の玖保キリコさんは、現在、ロンドンで夫と子どもの3人暮らしをしています。玖保さんが帰国したタイミングをはかって、インタビューをしました。

インタビューの最後に、すてきなプレゼントのご案内があります! お見逃しなく!!

ロンドン→東京でただいま仕事中!!

イギリスに移住したのはいつですか?

「1996年のことです。イギリス人の夫とは、彼が仕事で日本に来ていたときに友人を介して知り合って結婚したのですが、帰国することになったので一緒に行くことにしました」

日本で漫画家として活躍している最中に、海外に移住するなんて悩みませんでしたか? 漫画の連載もあるでしょうし、不都合はありませんでしたか?

人生何とかなると思っていたので、仕事を辞めるつもりはなかったですね。ロンドンからでも、フェデックスのような国際貨物便を使えば、原稿が3日ほどで届くんです。ですから私としては、地方で生活しているのと同じではないかと思っていました。
また、日本にアシスタントを残してそこで仕上げをしたうえで出版社に持っていきますので、そんなに不便はないですね。
もちろん、発送した原稿が届かないとか、行方不明になったというアクシデントもありましたけれど、なんとかなりました。

今では、インターネットで原稿を送ることもできるので、
こうなるとどこにいても問題なくやり取りができます。日本で努めていた人間が海外で暮らすとなると、仕事をやめるかどうかを決めなくちゃならないでしょうが、私の場合、こうした職業だったのでやめずにすんでラッキーだったと思っています」

日英子育て比較

現在、3人暮らしということですが、ロンドンでの子育てについてお伺いします。日本との違いを感じるようなことはありませんか?

「今、子どもは小学生ですが、スポーツデーという日本で言えば運動会のような日があります。これが日本の運動会を経験している私にはびっくりしました。とにかく日本のように行進したり、みんなの見ている前で競技するというスタイルではないんです。競技する場所がいくつかに分かれていて、それぞれ勝手に進行している。それをクラスごとに巡って参加するといった感じなので、見学する親たちも一緒に移動するんです。競技といってもスプーンレースといった当日参加すればできるようなものが多く、事前に練習することもない。もちろん高学年になると、選抜された選手による400メートル走などの競技はありますけど、のんびりしたものです。ずいぶん違うなと思いました」

お子さんがいることで、仕事に影響はありますか?

イギリスでは、小学校在学中は大人が子どもの送り迎えをするという慣例があります。ですから私の場合は、学校が終わるので3時半には仕事をいったん中断し、再開するのは夕食後というスタイルで仕事をしています。小さいときは、ベビーシッターさんに任せて仕事をしたこともあります。日本は、子どもを預かってくれるシステムが少なくて大変ですね。イギリスでは、学校のお休みの時期に、地域の自治体が経営している場所があって、お金を出せば8時半から18時まで預かってくれる。ちょっと大きい子でもそこで遊べるので助かります」

イギリスでは、子どもの面倒を見る職業の人もいますよね。テレビに「ナニー」という専門職の人が出ていましたが、メアリーポピンズもナニーですよね。

住み込みで子どものしつけをする人をナニー(nanny)」と呼び、資格を持っている人もいます。ベビーシッター(Baby-sitter)」は、ハイティーンのアルバイトが多いですが、一時的に家に行って子どもの面倒を見る。オペア(Au-pair)」というものもありますが、これは、イギリスに英語を勉強しに来ている若者を自宅に住まわせ、その代わりに子どもの面倒を見てもらう方法。チャイルドマインダー(Childminder)」というのは、チャイルドマインダーに登録した人の家に子どもを連れて行って預けるシステムです。結局、私の場合は1周間のうち、ある程度長時間でレギュラーできてくれるベビーシッターにお願いしました」

イギリスにはいろいろなシステムがあるんですね。

家族なのに別々の動物?!

ところでご家族3人というと、この「三匹、おうちにいる」の一家も3人家族ですね。ところで、なぜカエルと犬とブタの家族なのでしょうか? 

「動物にしたのは、人間で描くよりも生々しくなくて描きやすいと思ったからです。
カエルと犬の子どもがなぜブタなのかということは、家族のメンバーそれぞれの個性を動物にたとえたと考えてもらえば納得してもらえると思います。やんちゃな子どもを描くのに、コブタはちょうどいいキャラクターだと思って設定しました」

モデルは玖保さんのご家族ですか?

「そう言えるところもありますが、違うとも言えます。夫は動物にたとえるとすれば「バンビ」のほうが近い、でも犬にしました。私はどちらかといえば「あひる」タイプですけれど、そうなると三匹とならないで、2匹と1羽になってしまうので、カエルにしました。もともと漫画に自分の家族のことを描くつもりはありませんし、ゆるい感じで参考にしているといったところでしょう」

では、漫画の内容は、どこからヒントを?Photo_4

「そうですね。友人から聞いた話を使わせてもらったこともありますし、自分の経験から生まれたものもあります。たとえば、電車で同席した人が、自分が持ってきたのと同じお菓子を食べているので、勝手に食べられてしまったと勘違いしたという話(2006年2月号)がありますが、これは友人から聞いた話。幽霊屋敷に連れて行ったら、暗がりが怖くなってしまったという話2008年7月号)は、ディズニーランドのフォーンテッドマンションに子どもを連れて行った経験を描きました。でも、そのまま漫画にすることは、ほとんどないと思ってほしいですね」

「三匹、おうちにいる」のケロコさんは、母親としてとても共感できる主人公ですが、ほかの作品の主人公は、どこか“わが道を行く”ようなタイプですね。主人公のキャラクターはどのように決めているのでしょうか?

「とくにねらっているわけではないんですが、気がついたらそうなっちゃうといった感じです。個性の際立ったキャラクターのほうが描きやすいんですよね。よく私は、意地悪なものを描くといわれていますが、私自身は意地悪ではありません。”こういう状況はイヤだろうな”と想像することはあるんですよ。もちろん実際にはやりませんけどね」

「三匹、おうちにいる」の今後の構想は?

「そうですね。今年度は夫婦関係を描いてみたいと思いますね。他の親たちの姿なんかも描いてみたいと思っています」

これからも楽しみにしています。


Photo_6 「母の友」読者だけのプレゼント

昨年、玖保さんは漫画『ヒメママ2』(マガジンハウス刊)を出版しました。
わが道を行く義母さんの姿がほほえましいこの作品を、
なんと玖保さん直筆サイン入りしかもトンキー、ドック、ケロコさんのいずれかが描かれています!)「母の友」の読者3名様に各1冊をプレゼントします。

ご希望の方は、ハガキに「ヒメママ希望」と明記の上、
ご住所、お名前、お電話番号をお書き添えの上、5月15日(消印有効)までに
ご応募ください。当選者の発表は、本の発送をもってかえさせていただきます。

送り先 
〒113−8686 
東京都文京区本駒込6−6−3 
福音館書店「母の友」編集部プレゼント係 

*FAX(03−3942−2088)でも受け付けます。

4月 23, 2009 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月30日 (月)

あの人に会いに③井上文香さん[後編]

Photo_10 前回、イラストレーターになるまでのことを赤裸々に(?)お話しくださった井上文香さん

インタビュー後半では、「母の友」巻頭エッセイのイラストのお仕事について、うかがいました。

エッセイとの絶妙なコラボレーションを見せる、井上さんのイラストの秘密に迫ります!

「母の友エッセイ」の仕事

デザインマーカーに水彩や色鉛筆を加えて描いているという「母の友エッセイ」のイラスト。毎回「自分で最初からこうしようとは決めずに」編集部から届く原稿を読んでからわきあがるイメージを大切にしています。

「エッセイに添いながらも、できれば少し自立もできるような感じを目指しています。
表紙を開けて1見開き目なので、できるだけふわって心が引き込まれるようなものを。
ちょっとした季節感も取り入れたいと思っています」

たしかに、内容に寄り添ってはいても、ずばりそのものを描いているわけではないんですよね。

「そうなんです。それに、必ずというわけにもいかないのですが、できるだけ自分がどこかで目にした風景とか、体験したことを描くように心がけています。
6月号のおもちゃにしても、自分が小さいころに使った人形なんかを、ちょっと入れたりして(笑)。
本人に少しでも思い入れがあるものを絵にしようと思ったときのほうが、読んでいる人に入り込んでもらいやすいというか、伝わりやすい気がしているので」

しっかりと自分を持ちながらも、少し離れたところからしっかりと相手を見つめて共に走る──伴走者としての井上さんの誠実さとプロ意識に支えられればこそ、「母の友エッセイ」は見事なハーモニーとなって、私たちの心に響いてくるのです。

「文章を書かれる方は、いろいろな思いを持って向かわれていると思うので、やっぱりその思いに恥じないよう、私のできるかぎりのものができればなーと思っているんですけれどね」 

井上さんの思い出のエッセイ

Photo 2005年6月号
「砂漠の泥団子」 奥薗壽子さん


はじめてエッセイを担当させて頂いた方です。
水源を求めて時に何万キロも伸びていくという根っこ。
ストレートに根っこを描きました。



Photo_5 2007年7月号
「ボロ屋の思い出」 大竹伸朗さん


「家はボロいほど思い出は濃くなる傾向があるのではないか」── 。
自分が小さい頃住んでいた、トタンで出来たボロい工場兼家を思い出しました。
実は描いたのはその家です。


Photo_6 2007年10月号
「天音のいない日々」 山口ヒロミさん

重い障害をもつ娘の天音さんを亡くされたことを書かれた号です。
いのちのこと、かけがえのない思い。
空と雲にたくしました。


Photo_7 2008年5月号
「あなたがちいさかったとき」 東直子さん


かれこれ7年近くまえに見かけて描いた光景です。
もう一度描いてみました。


Photo_8 2008年6月号
「探していたもの」 東直子さん


初めて投稿されたという短歌、思いが伝わってきました。
わたしが小さい頃大事にしていたぬいぐるみも描いています。



【プロフィール】
井上文香(いのうえふみか)
イラストレーター。1971年、東京生まれ。東京造形大学絵画科中退後、約1年間フランス滞在。パレットクラブイラストコース、イメージフォーラムアニメーションコースなど受講。主な書籍装画に『いのちの灯台─生と死に向き合った9組の親子の物語』(明石書店刊)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩﨑書店刊)など多数。「母の友」のほか、「おおきなポケット」でもイラストを連載中。
ホームページ 
http://www.cre-8.jp/i/user_page-InoueFumika.html

6月 30, 2008 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年6月26日 (木)

あの人に会いに③井上文香さん[前編]

Inoueillust1 「母の友」の表紙を開くと、まず現れるのが、人気連載「母の友エッセイ」。さまざまな分野で活躍する方々による3カ月ごとのリレーエッセイです。

エッセイの内容はもちろん、その背景に描かれたやわらかな色合いの絵に心和ませている方も多いのではないでしょうか。

ブログ限定インタビュー、あの人に会いに。今回は、2005年から「母の友エッセイ」の絵を担当してくださっているイラストレーター井上文香さんに、お話をうかがいました。

(イラスト・井上文香)

パリへの逃走劇?

静かでほんわかあたたかい──絵のイメージから、井上さんもおとなしくて女性的な方だと思っていました。実際お会いしてみての第一印象も、まさにイラスト通り。しかし、どうやらそれだけではなかったみたい。まずは絵を描き始めた学生時代のことをうかがおうと思ったら……。

「美大に入ったのはいいのですが、なんと1年半くらいで中退しちゃったんです。旦那を追いかけて」

えっ? そういえば、薬指に指輪が。聞けば、同じ東京造形大学絵画科の同級生だったボーイフレンドが大学を辞めてパリで勉強をするというので、追いかけていったと言うではないですか。

Photo_2 「なんかね、亥年だからかしら(笑)。猪突猛進ってやつで、滅多に走らないんですけど、走り出すと止まらない、みたいな。お恥ずかしい」

そう言いながらうつむいて笑う井上さん。かわいらしいのに、意外と激しい一面が。

「何の準備もしないで行ったんですよ、今考えたら若いからこそできたんですね。でもそんなふうにして飛び出したのに、彼のほうは行ってみてしばらくしたら、どうも感触的に違うな、と気がついたみたいで」

結局2人で帰国を決意しますが、せめている間にヨーロッパの芸術にたくさん触れようと、フランスはもちろん、イタリア、スペイン、イギリスなどで美術館や教会巡りをしたといいます。

「まあ暴走したのは失敗だったかもしれないですけど、何も知らないうちに、予備知識なしに向こうの芸術や文化に触れられたのはよかったかなと思います。何もかもが、ドびっくりでしたから(笑)。町中でけんかしている人の多さとか、犬の糞の多さとか、あとは何と言っても教会のあり方が。仕事帰りとか買い物帰りの人が、ごく普通に歴史的建造物に立ち寄ってお祈りしていくという光景が、なんかこう、とても自然で、日本と全然違うんですよね」

その後帰国、23歳で結婚して、今年は14年目だそうです。

イラストレーターになる

結婚当初は、油絵を専門で描く夫のサポート役に徹していた井上さんですが、やはり次第に自分でも描きたい気持ちが募ってきました。

「どうも気持ちがくさくさしてきて、よくなかったみたい、雰囲気が。自分でも感じていたし、夫も『そんなんだったらやったら』と言ってくれて」

家で少しずつ絵を描くようになったものの、どうしたら仕事としてイラストが描けるようになるのかわからないでいた矢先、友人から、イラストスクール「パレットクラブ」を紹介されます。第一線で活躍するプロのイラストレーターたちから直接指導が受けられると聞き、見学くらいなら行ってみようかな」くらいの軽い気持ちで見に行くことに。

「見て帰ってくるだけにしようと思っていたのに、行ったら妙に行きたくなっちゃったんですよね(笑)。胸騒ぎというか、びびっと来ちゃったんです」

この「びびっ」がきっかけで、スクールで知り合ったアートディレクターや友人たちから少しずつ仕事が来るようになり、井上さんは次第にプロとしての道を歩むようになりました。

【プロフィール】
井上文香(いのうえふみか)
イラストレーター。1971年、東京生まれ。東京造形大学絵画科中退後、約1年間フランス滞在。パレットクラブイラストコース、イメージフォーラムアニメーションコースなど受講。主な書籍装画に『いのちの灯台─生と死に向き合った9組の親子の物語』(明石書店刊)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩﨑書店刊)など多数。「母の友」のほか、「おおきなポケット」でもイラストを連載中。
ホームページ 
http://www.cre-8.jp/i/user_page-InoueFumika.html

6月 26, 2008 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月 7日 (水)

あの人に会いに②鈴木理策さん[後編]

Risaku21_2 前回、連載「空もよう」についてお話しくださった鈴木理策さんは、写真家であると同時に、美術大学の准教授でもあります。

インタビュー後編では、大学教授・鈴木理策の素顔を。

今年度、日本写真協会年度賞受賞! おめでとうございます!

初めての大学生活?

「アーティストって基本的に自分のことは詳しいけど、あまり全体のバランスを考えたりしないじゃないですか。大学でも、キャラクターの違う学生が集まっているから大変ですよ(笑)」

そう笑う鈴木さんが大学で教え始めたのは2006年。それまで他の大学や専門学校の講師をつとめたことはあったが、専任は初めて。現代美術を専門とする科の准教授として、講義やワークショップ、ゼミを通して学生に写真を教えている。

「たまたま話が来たんですよね。写真とアートの、境界線というかカテゴリーのようなものが、今どんどん曖昧になってきています。実際、自分の写真作品も現代美術の画廊で販売していますし。そういった状況を面白いな、と感じていたので、引き受けることにしました。
あと、ぼくは大学に行かなかったので、大学がどんなところかというのにも興味があって(笑)」

作らずにいられない人には勝てない

大学での仕事は面白い、と言いつつも、そこは芸術家。学生が芸術表現を大学で学ぶことについては鋭く目を光らせる。

「やっぱり表現って無理にするものじゃないじゃないですか。作品は作らずにいられないっていう人が作ればいいし、そういうものでなければ絶対に魅力をもたない。理屈や言葉で組み立てたうえに作品を作るというよりは、まずは物(作品)があって、言葉は後からついてくるものだな、と思います。

だから基本的には、勉強して何とかなるものだとは思わないんですが(笑)、大学で『知る』ことが何かのきっかけにはなる、と信じています。出合ったり知ったりした結果が自分に戻ってくる──学校がそういう場所になれば面白いと思います」

なるほど……。大学は場所、環境として芸術家を育むのですね。
 
Risaku11 自らの体験を伝える

しかし実は鈴木さん自身、コンセプトやルールにとらわれていた時期があった。

「ぼくも最初のうちは、世の中には共通の価値基準というのがあって、それをクリアすれば作品は残っていくんだ、ってすごく頭でっかちに考えていました。そういう写真を撮ってましたしね。

でもそのころは結局、鳴かず飛ばずというかんじで。それなりに玄人受けはしていたけれど、そんなに面白がられるという感じじゃなかった気がします」

転機となったのは、連続する写真で作品を作り上げる独自のスタイルを発見した、代表作『KUMANO』(光琳社出版刊)。

「『KUMANO』から、実験的に好きに撮るようになって、変わってきました。自分としてはある種の開き直りだったんですけれど、それに人が興味を持ってくれるようになって。

変な話ですよね、こちらから一生懸命アプローチを用意するよりも、そっぽむいて一人閉じてやっていたら、『何やってんの?』って友達が寄ってくるみたいで」

自身が「最初からそれができていたタイプじゃなかったんで」、物作りの苦労や流れはよくわかっているという鈴木さん。

「そういった部分では、すごく学生に伝えられるものがあるかなと思っています」
 
その後話題は「母の友」の特集記事や日本の教育、価値観についてと広がった。そのしなやかで鋭い感覚は、写真作品の印象ともつながる。

5月にはアメリカ・ニューヨークでグループ展も控えている。「空もよう」ともども、鈴木さんの今後の活躍に、注目したい。

(写真・石川直樹)

Photo_3 鈴木理策さんの写真集
『鈴木理策、熊野、雪、桜』(淡交社刊)
『SASKIA』(リトル・モア刊)

【プロフィール】
鈴木理策 (すずきりさく)
1963年、和歌山県新宮市生まれ。写真家。
東京綜合写真専門学校研究科卒業。80年代後半に渡米、旅をしながら各地を撮影。
99年、写真集『Piles of Time』で第25回木村伊兵衛賞受賞。06年に第22回東川賞国内作家賞、和歌山県文化奨励賞受賞。2007年、東京都写真美術館で個展「熊野、雪、桜」を開催。
本年3月、日本写真協会賞年度賞を受賞。現在、東京芸術大学美術学部先端芸術表現科准教授、立教大学現代心理学部映像身体学科非常勤講師。
5月16日よりアメリカ・ニューヨークのInternational Center of Photography で開催される、グループ展「Heavy Light: Recent Photography and Video from Japan」に出展予定。

5月 7, 2008 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年3月31日 (月)

あの人に会いに②鈴木理策さん[前編]

すっかりご無沙汰したブログ限定インタビュー、「あの人に会いに」。今回は、連載6年目を迎えた写真家鈴木理策さん を、東京都渋谷区の事務所に訪ねました。
 
静謐かつ鮮烈──風景を複数の写真でつながりとして表現することで知られる鈴木理策。どこまでも美しく、澄んだ空気をたたえたその作品は、見る者の心の奥にある何かを呼び起こしてやまない。

そんな日本を代表する写真家の鈴木さんが、「母の友」の人気連載「空もよう(文・中山千夏)の写真を連載開始時の2000年度から担当してくださっていることは、意外に知られていないかもしれない。

毎月、話題の時事問題に独自のユーモアと切り口で迫る「空もよう」は、中山千夏さんの文章はもちろん、千夏節を受けてひねり出された鈴木さんの写真によって、さらなる広がりを生んでいる。しかし、その舞台裏は意外とフクザツで……。

Photo_4   時間とアイデア作りのたたかい

「いやあ、毎回大変ですよね」

えっ。(凍りつく編集部)

「原稿が届くとすぐに読むんですが、アイデアが浮かぶまでが面白いなと思って保留にしていると、編集部から催促のお電話をいただいてしまって(笑)

スミマセン。その時々のトピックをなるべくホットなうちにお伝えしたいとの思いから、「空もよう」の締め切りはいつも綱渡りなので……。

「原稿の内容を具体的に絵にできるかどうかが難しいですね。ストレートに挿絵のようにしてしまっては面白くないから、読み取る余地というか、しかけを作ったほうがいいなと思って、若干ひねろうと一生懸命するんですけど」

「通じてますか?」

連載開始当初は、撮りためてあったアメリカ旅行などの写真から、内容に合ったものを選んで使っていたものの、最近は撮り下ろすことが多くなった。

「もうないんですよね、ストックが(笑)。原稿の内容も、言葉が具体的になってきたような気がするなあ」

と言いつつも、これまでの連載ページをめくりながら、次第に懐かしそうな表情に。

Photo_2 「そういえば、こういうのって読者に通じてるのかな?」

取り出したのは、中山さんが長年のファン「晴美ちゃん」の死について語った「区切り」(2008年3月号)。「晴美ちゃん」との初対面が「お荷物小荷物」というテレビドラマの公開録画だった、というくだりがあった。

「『お荷物小荷物カムイ伝』*を意識して、熊の人形にしたんですけど、通じましたかね? ぼく、中山さんがモノクロのテレビに出ているころから見ていたんです。風呂敷で登場してた印象があったので風呂敷もちらっと見せて」

あっ、本当だ。そしてこの熊の置物は、事務所の階段に置いてあったものですね。すみません……全然通じてませんでした。

そうなのだ。内容との絶妙な間合いは、映っているモノによるところが大きい。それだけに、被写体探しには苦労しているという。上野動物園にコウノトリを撮りに行ったり(06年12月号)、ボクシングゲームを締め切り前日に「どうしようもないんで」購入したり(08年2月号)。「ペコちゃんも、探しましたねぇ」(07年4月号)……。

「逆のパターンやったらどうですかね。中山さんに、まず写真渡すから原稿書いて、みたいな(笑)」

作品モードと連載モード

「うまくいったときは面白い」という「空もよう」の仕事だが、なにしろ写真家・鈴木理策の作品世界とは異なる作家とのコラボレーション。きっとモードが違いますよね。

「まったく違いますね。『空もよう』はキャッチボールです。中山さんが原稿を投げてきたら、それに返す返事を書いているみたいなもので。そのまま答えるだけじゃ面白くないから、それなりに自分で考えて返すようにしています。

自分の作品というのは自分自身がクライアントだから、一方的に外に向かって手紙を書くだけです。本当は自分に向かって書いているんですけど。

知ってます? 野球って最初は二人が仲良くキャッチボールしているところにもう一人が嫉妬して、割って入ってボールを打ったところから始まったと。寺山修司が書いているんですよ。本当かどうかわかりませんけど(笑)。

僕なんかはわりとそういうふうに線を引いて考えるタイプで、ある意味古いかもしれない。今の若い子なんかは、そんなに差はないかもしれないですよね」
 
「今の若い子」と言う鈴木さん。実は2年前より大学の専任准教授として学生を教えているのです。次回は、「鈴木先生」の素顔をお届けします。

*「お荷物小荷物・カムイ編」は、1971~72年のテレビドラマ。前年に放送された「お荷物小荷物」の続編で、ヒグマの子どもを奪還するためお手伝いとして働くアイヌの娘を中山千夏さんが演じ、話題を呼んだ。

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鈴木さんお気に入りの「空もよう」

Photo_6 2005年8月号「弱さの強さ」

「これはかなり気に入っているんですよ。長沢節さんが亡くなったときの話なんだけど、たまたま通ったこのおじさんがすっごく似てるの。知ってる人だと『えっ』となると思いますよ」

Photo_7

2004年9月号「ほんとうの現実」

「これは、近所の飲み屋の看板。偶然なんですけどね」

Photo_8 2005年3月号「スリッパにせよマサカリにせよ」

「これもすごいですよね。82歳のおばあちゃんが嫉妬して旦那を斧で……っていう事件の話なんだけど、ちょうど昔撮った写真がぴったり合って」

Photo_9 2004年5月号「オヤジの決めゼリフ」

「世の男は女性のことを働く動物くらいにしか思っていないんじゃないか、という文章に、青森で撮った犬にえさをやっているおっさんの写真を使ったんです。
ああいうのはやっぱり気が利いているな、おもしろいなあと思う(笑)」

Risaku31 【プロフィール】
鈴木理策 (すずきりさく)
1963年、和歌山県新宮市生まれ。写真家。
東京綜合写真専門学校研究科卒業。80年代後半に渡米、旅をしながら各地を撮影。
99年、写真集『Piles of Time』で第25回木村伊兵衛賞受賞。06年に第22回東川賞国内作家賞、和歌山県文化奨励賞受賞。2007年、東京都写真美術館で個展「熊野、雪、桜」を開催。
現在、東京芸術大学美術学部先端芸術表現科准教授、立教大学現代心理学部映像身体学科非常勤講師。本年3月末まで、東京都庭園美術家でグループ展「建築の記憶」を開催した。
5月16日よりアメリカ・ニューヨークのInternational Center of Photography で開催される、グループ展「Heavy Light: Recent Photography and Video from Japan」に出展予定。

(写真左・石川直樹)

3月 31, 2008 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年7月11日 (水)

わたしの好きな絵本/アン・サリーさん

 連載「わたしの好きな絵本」は毎回、いろいろな分野の方に思い出の、あるいはお気に入りの絵本を教えていただくコーナーです。Ann_sally_yagi_session_2007_159_2

 今月は歌手のアン・サリーさんが登場。アンさんは医師としての顔も持ち(実際に病院で勤務しています)、幼いお子さんを持つお母さんでもあります。

 今回久しぶりにお会いすると(昨年6月号でもお話をうかがいました)、おなかが大きくふくらんでいるではありませんか。聞けば、2人目のお子さんを出産間近とのこと。撮影のために移動をお願いするのも申し訳ない気持ちになりましたが、階段の上り下りや、カメラマンの要望にも笑顔で応てくれました。

 さて、そんなアンさんのお気に入りは、つわりがつらいころに何度も読んだという絵本でした。それは……どうぞ「母の友」8月号をごらんください。

 なお、アン・サリーさんの新しいアルバム「こころうた」(発売元:ビデオアーツ・ミュージック)が7月18日に発売予定です。山田耕作作曲の「椰子の実」からブラジル音楽の名曲まで、幅広いジャンルの曲がやさしい声で歌われています。また、夜、お子さんを寝かせてからこつこつ作ったという、初の自作曲も収録されているとのことです。
こちらのサイトで、試聴することができます。Vacm1312_1

7月 11, 2007 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年4月12日 (木)

あの人に会いに① 野田あいさん・インタビュー

このブログでは、連載著者の方々の、ふだんご紹介できない素顔もインタビュー形式でご紹介していきます。

「あの人に会いに」第1回目は、昨年度から好評連載中の「今月の子ども」(文・柴田愛子)のイラストを描いてくださっている野田あいさんを、所属するHBスタジオに訪ねました。

イラストレーターの唐仁原教久さん率いるHBスタジオは、東京・表参道から少し入った静かな路地にあります。野田さんは、透明感、おっとり、といった言葉がぴったりなやさしい雰囲気の女性。クラッシック音楽が流れる明るい部屋で、お話をうかがいました。

Photo『絵本作家のアトリエ』シリーズが大好きです」。

1976年生まれの野田さんは、まさに「『ぐりとぐら』で育った世代」です。5月号の「石井桃子の仕事」を眺めながら、「このへん(石井桃子さんの本)はだいたい読んでいますね」と懐かしそうです。

短大の生活芸術学科を卒業後、広告代理店のデザイン室に入り、アシスタントを勤めながらパソコン技術を習得した野田さん。

短大を出た後、何か少しでも学んだことに近いものをやりたいなと思って代理店に入ったのですが、当時はまったく漠然とした感じでした」。

1年ほど勤めた後、唐仁原さんのアシスタント募集の広告を見て、HBスタジオに移ります。

HBは私にとって、ほとんど学校のようなところです(笑)。プロの仕事を見ながら、自分の絵へのアドバイスももらえて、併設されているギャラリーでは色々な方の作品に触れる機会も頻繁にあるという、すごく恵まれた環境で活動できるのは、特殊な例だと思います。ここに入れたことが私にとってはすごく大きかった」。

イラストは主にマッキントッシュのパソコンで描きます。すでに独自の世界観を確立された感のある野田さんですが、「描けるものから描いていったら今のスタイルになったという感じ」といいます。なかでも好きなのが、子どもの絵です。

Photo_2 自然な子どもの動きがかわいらしい、連載「今月の子ども」のイラスト。モデルの多くは、なんとご自分なんだそうです。

自分が子どもだったころの写真を見て描くことが多いですね。小さいころに写真をよく撮ってもらったほうなので(笑)」。

また、この連載ではご自分の経験が大いに役立っているといいます。

短大のときに、夏休みに1カ月、保育園でアルバイトしたことがあって、それがすごく役に立っています。最初お母さんと別れるとき泣いちゃう子とか、毎朝泣いてる子も必ずいましたし。まさに『今月の子ども』の世界そのものです。2歳、3歳、4歳と幅広い年齢のクラスをまんべんなく担当させてもらいました。それがなかったらこのお仕事は難しかったかもしれないですね」。

毎月届く、柴田愛子さんの原稿も楽しみにしているとのこと。
絵がイメージしやすくて、とても楽しいです。昨年11月に個展を開いたときには、柴田先生も来てくださって。想像通りな方で、すごく嬉しかったです」。

Hb最近は、単行本の装丁の仕事でも大活躍中の野田さんです。
『失われた町』(三崎亜記著、集英社刊)、『チャーリーの旅』(ジョン・スタインベック著、竹内真訳、ポプラ社刊)、『櫻川ピクニック』(川端裕人著、文藝春秋刊)などなど、話題作が目白押し。
書店で野田さんのイラストを見かけない日はないほどです。
鮮やかながらやさしい色合いと、かわいらしい子どもの絵に目がとまったら、ぜひ手にとって見てくださいね。

【プロフィール】
野田あい(のだあい)
1976年東京生まれ。イラストレーター。
跡見学園短大生活芸術科卒。広告代理店アルバイトを経て、1998年よりハッピー・バースディ・カンパニーに所属。唐仁原教久氏に師事。

HBスタジオ内・野田あいさんのページ
http://www.hbc.ne.jp/hbs/illust/noda/new/index.html

4月 12, 2007 あの人に会いに | | コメント (0) | トラックバック (0)