絵本作家のアトリエ・レイモンド・ブリッグズさん
11月号の「絵本作家のアトリエ」は8月号に続き、イギリス編です。
子どもの憧れ、サンタクロースをちょっぴり頑固で不機嫌な、リアルな老人として浮かび上がらせた『さむがりやのサンタ』や、少年の一夜の夢を色鉛筆の淡いタッチで情感豊かに描いた『雪だるま』(スノーマン)……。
独自のコマ割り表現でグラフィック・ノベルというジャンルを切り開き、世界中で愛されてきたレイモンド・ブリッグズさんを、3月下旬、イギリス南部のアトリエに訪ねました。
ロンドンから列車で一時間。
英国南部のサセックス州ハソックス駅には出口が二つあった。
近い方から外へ出る。
タクシーらしき車は見あたらない。
通りで談笑していた男性に地図を見せて尋ねると、驚く答えが返ってきた。
「この住所はレイモンド・ブリッグズのところだね」。
タクシー乗り場は逆の出口とのこと、戻って待つが一向に現れない。
鳥のさえずりを聞きながら十分が経過、いよいよ困って駐車場をくまなく探すと、空っぽのタクシーが。
車体に書かれた電話番号に電話し、ようやく車がやってきた。
なだらかな丘陵地を背景に、石垣に囲まれた牧草地が広がる田舎道をゆく。
細い路地で迷った運転手が、通りがかった郵便配達人に再度道を尋ねた。
「ああ、ブリッグズのとこだろ。すぐそこだ。今本人がいたよ」。
*
白い戸をたたくと、戸の上部が開いて、長身の男性が現れた。
「やあ、いらっしゃい。タクシーで苦労したんじゃないかね?」。
眉間のしわはそのままに、口元をゆるませたその人こそ、かのレイモンド・ブリッグズだった。
赤い壁には所狭しと絵や写真がかかり、デスクや棚はウイットに富んだオブジェや人形が飾られている。
見入っていると、主が紅茶をいれてくれた。
「ロンドンから来たなら、一旦出て駅の下をくぐらなきゃいけなかったろう?
タクシー会社はすぐそこにあるんだが、駅からは見えないし、看板さえないときてる。
まったくどうかしてるよ。やなこった」。
ええ、何とか車がつかまってよかったです。
途中で二度道を聞いたのですが、二人ともあなたの家をよく知っていました。
「ああ、有名人だからね」。
そう言って笑った。
おちゃめな皮肉屋
「東京には一度行ったことがあるよ。
高層ホテルの十一階あたりに泊まったんだ。夜中、ベッドが揺れている気がして目が覚めたけど、地震の夢でも見たんだろうと思った。
ところが翌朝、編集者に『ねえ、地震すごかったわねえ!』と言われたものだから、あれは本物だったんだ! と驚いたよ。
ああいう揺れ、よくあるのかね?」
ええ、年中です。
「なんてこった! 信じられん。恐怖だ」。
地震の頻度、大きさから非常袋や緊急避難所の整備具合まで、具体的に質問してくる。
かと思うと、ふいに小さな声でぶつぶつと。
「ああ、ティーバッグが邪魔だな。
みんなこういうとき、一体どうしてるんだか。
おや、ビスケット食べてないね。
こういう妙なモノは口にあわんかね?」
……どこかで見たなあ、こういう人……。
*この続きは、本誌でどうぞ!
10月 7, 2010 今月の“立ち読み” | Permalink
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