絵本作家のアトリエ・ユリー・シュルヴィッツさん
グリニッチ・ヴィレッジ、午後5時。かつて名だたる芸術家が集まり、今も小劇場やレストランが軒を連ねる地区。ジャズクラブの名門ブルーノートの隣、アトリエがあるというレンガ造りのビルの最上階を仰ぎながら、「どうかうまくいきますように」と念じる。
極端にシャイな人だとは聞いていた。作品は静謐で哲学的。取材決定後も、インタビュー場所は二転三転した。アトリエから出版社のオフィス、そして最終的には友人のアパートで。いやおうなしに緊張は高まる。エレベーターの中で人という字を何度も飲み込み、部屋のドアをノックする。
「ようこそ、はじめまして!」。
にこやかにドアを開けたのは、本人だった。黒のセーターにジーンズ姿。今年73歳とは思えない、若々しさだ。
「今新作に取りかかっていて、アトリエがひどい有様なんだ。本当に申し訳ない」。
そう言って頭をかいている。やわらかな笑顔。
「ウーリー(ユリーは正しくはこう発音します)と呼んでください」。
緊張が嘘のように消えて、なぜかまるで古くからの友人を訪ねたように懐かしい気持ちになる。とても不思議。でも、その謎はじきに解けた。
「棟方志功を知っている?」
テーブルに着くなり、ウーリーがそう言ったのだ。棟方といえば、厚い眼鏡がトレードマークの20世紀日本を代表する木版画家。
「本当にチャーミングですばらしい人だ」。
アメリカでの講演会で会ったことがあるという棟方のほかにも、北斎、歌麿、雪舟……日本や中国の画家の名前が次々と挙がる。一番好きな思想家は老子で、太極拳歴はなんと30年以上という東洋通。しかし、日本はもちろん中国にも行ったことはない。
*この続きは、本誌でどうぞ。
(写真・太田康男)
8月 8, 2008 今月の“立ち読み” | Permalink
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