あの人に会いに③井上文香さん[後編]
「母の友エッセイ」の仕事
デザインマーカーに水彩や色鉛筆を加えて描いているという「母の友エッセイ」のイラスト。毎回、「自分で最初からこうしようとは決めずに」編集部から届く原稿を読んでからわきあがるイメージを大切にしています。
「エッセイに添いながらも、できれば少し自立もできるような感じを目指しています。
表紙を開けて1見開き目なので、できるだけふわって心が引き込まれるようなものを。
ちょっとした季節感も取り入れたいと思っています」
たしかに、内容に寄り添ってはいても、ずばりそのものを描いているわけではないんですよね。
「そうなんです。それに、必ずというわけにもいかないのですが、できるだけ自分がどこかで目にした風景とか、体験したことを描くように心がけています。
6月号のおもちゃにしても、自分が小さいころに使った人形なんかを、ちょっと入れたりして(笑)。
本人に少しでも思い入れがあるものを絵にしようと思ったときのほうが、読んでいる人に入り込んでもらいやすいというか、伝わりやすい気がしているので」
しっかりと自分を持ちながらも、少し離れたところからしっかりと相手を見つめて共に走る──伴走者としての井上さんの誠実さとプロ意識に支えられればこそ、「母の友エッセイ」は見事なハーモニーとなって、私たちの心に響いてくるのです。
「文章を書かれる方は、いろいろな思いを持って向かわれていると思うので、やっぱりその思いに恥じないよう、私のできるかぎりのものができればなーと思っているんですけれどね」
井上さんの思い出のエッセイ
2005年6月号
「砂漠の泥団子」 奥薗壽子さん
はじめてエッセイを担当させて頂いた方です。
水源を求めて時に何万キロも伸びていくという根っこ。
ストレートに根っこを描きました。
2007年7月号
「ボロ屋の思い出」 大竹伸朗さん
「家はボロいほど思い出は濃くなる傾向があるのではないか」── 。
自分が小さい頃住んでいた、トタンで出来たボロい工場兼家を思い出しました。
実は描いたのはその家です。
重い障害をもつ娘の天音さんを亡くされたことを書かれた号です。
いのちのこと、かけがえのない思い。
空と雲にたくしました。
2008年5月号
「あなたがちいさかったとき」 東直子さん
かれこれ7年近くまえに見かけて描いた光景です。
もう一度描いてみました。
2008年6月号
「探していたもの」 東直子さん
初めて投稿されたという短歌、思いが伝わってきました。
わたしが小さい頃大事にしていたぬいぐるみも描いています。
【プロフィール】
井上文香(いのうえふみか)
イラストレーター。1971年、東京生まれ。東京造形大学絵画科中退後、約1年間フランス滞在。パレットクラブイラストコース、イメージフォーラムアニメーションコースなど受講。主な書籍装画に『いのちの灯台─生と死に向き合った9組の親子の物語』(明石書店刊)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩﨑書店刊)など多数。「母の友」のほか、「おおきなポケット」でもイラストを連載中。
ホームページ http://www.cre-8.jp/i/user_page-InoueFumika.html
6月 30, 2008 あの人に会いに | Permalink
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